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暗い部屋と一人の女優に見るパーソナルな時空『無伴奏』

暗い部屋と一人の女優に見るパーソナルな時空『無伴奏』

(C)2015 「無伴奏」製作委員会 ただ暗くて見づらい画面と、コントラストを抑えて薄暗さを積極的に表現しようとする違い。 すなわちローキーで徹底的に行こうという意思を感じる『無伴奏』は、「あの時代」の空気感をよく表している作品だ。 といっても僕は1967年生まれなので、1970年代初頭に急速に収束した学生運動の時代の…
鑑賞後もついてきちゃうよ~『イット・フォローズ』

鑑賞後もついてきちゃうよ~『イット・フォローズ』

とら猫aka BadCatsさんもレビューしてくれましたが、僕も『イット・フォローズ』に大変感銘を受けたので、追随レビューさせていただきます。 まずは反省から。 僕は本作に興味を持つあまり、YouTubeで代表的な恐怖シーンをあらかた見てしまった。 なので、あんまし怖がれなかったです… 台無しである。 『イット・フォロ…
自立した個が対峙する感動『キャロル』

自立した個が対峙する感動『キャロル』

人と対峙…しないよなぁ。自分。 人と向き合うことを避けて48年間生きて来ました。 しかしそのことを自分で自覚しているがゆえに、対峙する人間の神々しさをスクリーンに見て滂沱の涙を流すという比類なき感動を味わうことができたのかもしれない。 冒頭、カメラは長回しで本筋とは関係ない男を追う。 やがてリッツのラウンジに入った男の…
破滅の恐怖と快楽(?)『コズモポリス』

破滅の恐怖と快楽(?)『コズモポリス』

デヴィッド・クローネンバーグの近作に麻薬的にハマっている。 インテリと変態が絶妙に共存していて、端正な作風ながらグロい。 イヤだヤメて~と思いながらも暗黒面にひきずりこまれていく感覚に、なぜか忘れがたい感興を催されしまうのだ。 『コズモポリス』は、独特のリズムと陰影の濃い美しい映像がスタイリッシュだが、人物の内面へ内面…
イジワルな哲学『石の微笑』

イジワルな哲学『石の微笑』

主人公フィリップ(ブノワ・マジメル)は真面目を絵に描いたような好青年。 家庭内の瑣末ないざこざを諌めたり、母に対して不誠実な母の恋人に苛立ったりとなんだか気が休まらないけど、小さなリフォーム会社の営業マンとして気忙しいながらもマジメに働いている。 パっとしないがごく普通の生活を維持している。 しかし一方フィリップは、亡…
大学という私の脳内の幻想の楽園『カミュなんて知らない』

大学という私の脳内の幻想の楽園『カミュなんて知らない』

冒頭の長回しが印象的な名作といえば、『黒い罠』『ザ・プレイヤー』『ハロウィン』などが挙げられると思うが、『カミュなんて知らない』の導入はそれらに匹敵する出来栄えである。 手持ちカメラが舞台となる立教大学のキャンパスを流麗に動き回った後、クレーンに据え付けられて学生たちのダンスをぶら~んぶら~んと浮遊しながら映しとる。こ…
山道で遭遇するイケメンにはご注意『サバイバル・ドライブ』

山道で遭遇するイケメンにはご注意『サバイバル・ドライブ』

つかみはオッケー。 じゃないけれど、玉石混交はなはだしいホラーの銀河を長いこと漂流しているうちに、今では冒頭の5分くらい見れば、その作品のあり/なしを見抜けるようになった。 『サバイバル・ドライブ』は元々、近所の某ツタヤで5枚借りるとお安くなるというキャンペーンを展開していて、お目当ての映画と一緒に数合わせのためだけに…
暴力の応酬を直視して炙り出されるもの『殺されたミンジュ』

暴力の応酬を直視して炙り出されるもの『殺されたミンジュ』

(C)2014 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved. ミンジュは冒頭に殺される女子学生の名前だが、韓国語では民主主義という意味があるそうだ。 が、そういう観念と結びつけて映画を語るとさももっともらしい語りになるので、それはしません。 というかできません。 僕にとっての『殺されたミン…
喜びを得るという罪『ブラック・フィッシュ』

喜びを得るという罪『ブラック・フィッシュ』

シャチが好きだ。 流線型の美しいフォルムに白と黒の鮮やかなツートンカラー。人間並みに感情豊かで、家族や仲間を大切にし、群れごとに言語を持ち、いざとなればホワイトシャークすらねじ伏せる。 仕事に倦んだときなどは、シャチが大海を優雅に泳ぎ回る映像を観ているだけで癒されるし、もちろんかの海洋動物パニックの名作『オルカ』も何回…
自分の物差しで勝手に愉しもう!『女が眠る時』

自分の物差しで勝手に愉しもう!『女が眠る時』

僕が大好きな「ロスト・イン・トランスレーション」と同じくホテル滞在ムービー。ラストが都市の雑踏というのも同じだ。 僕は本作を「ロスト~」と同様心ゆくまで堪能した。 巷では”難解”との評判を聞く。 そりゃそうだろう。ほぼ全編、スランプに陥った作家の、想像力と書く活力を得るための妄想のシーンなのだから((注)館長解釈)。マ…
史上もっともワイルドな映画『ロアー』

史上もっともワイルドな映画『ロアー』

唯一無二。 今や常套句として使われすぎてその価値を失っている形容詞だが、1981年製作の幻の動物アドベンチャー『ロアー』は掛け値なしの「唯一無二」の映画だ。 だって真似できないもの。誰にも。 こうした動物映画では通常、動物たちを人間の意図に合わせて演じさせることに骨を折るケースが多いが、『ロアー』の場合、そもそも動物た…
プロフェッシュナルの所作に触れる喜び『A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー』

プロフェッシュナルの所作に触れる喜び『A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー』

(C)2014 Avocados and Coconuts. (C)2015 mejirofilms ざっくり言うと、スペシャルティコーヒーはいかにして作られるか、というドキュメンタリーである。 昨今、食に関するドキュメンタリーを作るにあたって環境問題を付随して描くことを避けて通るわけにはいくまい。 コーヒーについて描…
男は黙って背中で語れ『グッドナイト・マミー』

男は黙って背中で語れ『グッドナイト・マミー』

男は黙って高倉健。 寡黙さが普遍的美徳であるかはさておき、語られないからこそ、逆に好奇心をかき立てられるという心理自体はさして特異なものではない。 これは映画も同じで、そこでそれ、言うかなーみたいな蛇足なひと言によって感動のシーンが台無しになることは珍しくない。誤解を恐れずに言えば、なんたら製作委員会が絡んでいる大作系…
生と死の両方の喜び『アンジェリカの微笑み』

生と死の両方の喜び『アンジェリカの微笑み』

(C)Filmes Do Tejo II, Eddie Saeta S.A., Les Films De l’Après-Midi,Mostra Internacional de Cinema 2010 『岸辺の旅』でも書いたが、僕は死をどうしようもなく恐れ、同時に、いやそれゆえに”死”に並々な…
どうしてお腹が減るのかな『グリーン・インフェルノ』

どうしてお腹が減るのかな『グリーン・インフェルノ』

食うか、食われるか。 人間に限らず生き物はすべからく、他者の命を奪って生きている。生きるためには何かを殺すしかないわけで、食べるとは本来的に罪深い行為であると言えよう。 『グリーン・インフェルノ』で描かれるのは、未開のジャングルの奥地に暮らすヤハ族の心温まる食事風景だ。彼らはパンツ一丁で全身赤塗りという、試合そっちのけ…
二度と戻らぬ少女を映画に刻む『天使が消えた街』

二度と戻らぬ少女を映画に刻む『天使が消えた街』

”映画作りに苦悩する映画監督”の映画である。 同じ題材で真っ先に頭に浮かぶのが、フランソワ・トリュフォーの「アメリカの夜」。 撮影現場の混乱と活気を描いた、映画作りは大変だけど、”それでも映画を作り続ける”という力強い映画愛に満ちた作品だ。 「天使が消えた街」はそれとはまったく趣が異なる。 主人公の映画監督トーマスは、…
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