僕が大好きな「ロスト・イン・トランスレーション」と同じくホテル滞在ムービー。ラストが都市の雑踏というのも同じだ。
僕は本作を「ロスト~」と同様心ゆくまで堪能した。
巷では”難解”との評判を聞く。
そりゃそうだろう。ほぼ全編、スランプに陥った作家の、想像力と書く活力を得るための妄想のシーンなのだから((注)館長解釈)。マトモにストーリーを追うのは無理があるってものだ。
妄想は夢と同じようなものだから辻褄など存在しない。そう決めてしまえば後は何も考えず、ただただ他人の妄想を味わっていればよろしい。
ただ、全編妄想と捉えてしまうとさすがに味が薄れるので、「ここが現実」「ここが妄想」と自分なりの物差しで区分けをしていくことが本作を楽しむ妙味かと思う。
そのさいの個人的なポイントを1つ挙げると、2回登場するホテル従業員(渡辺真起子)。作家(西島秀俊)に対するリアクションが全く違う。
1回目の登場では、作家の妻(小山田サユリ)と友人であるという設定に基づいてめっちゃフレンドリー。しかし2回目の登場時はまるで他人行儀。これにより最初は現実シーン、後は妄想シーン…というふうに僕は勝手に決めたのだが、そういうふうに勝手に愉しもう!
役者がいい。
特に西島秀俊のホウレイ線。
僕はホウレイ線というのは年輪を表す証だと思っていたのだが、ホウレイ線が美しく見える表情が存在することを初めて知った。
脇を固める役者陣もいい。
ビートたけし(クレジット上は主演)の想像以上に出っ張った腹。
忽那汐里の現実感のない透明美。
小山田サユリの芸達者ぶり。
リリー・フランキーの存在感。
そして新井浩文の目つき。
しかし僕にとっての本作の肝はやはりホテル!
ホテルでの清潔な、整然とした、無菌室的非日常性を登場人物たちと同様に体験し、ときどきホテルの外に出ていくことを愉しむ(「ロスト~」は代官山のクラブや渋谷のカラオケボックス。本作は伊豆の街中の居酒屋など)。
で、締めの雑踏。これでキマるのだ。
『女が眠る時』
監督:ウェイン・ワン
出演:ビートたけし、西島秀俊、忽那汐里、小山田サユリ
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:103分
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