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ホラーの荒野に咲いた幻花『ドールズ』

ホラーの荒野に咲いた幻花『ドールズ』


(C)1986 Taryn Productions, Inc. All Rights Reserved. (C)2013 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

今はなき“東京国際ファンタスティック映画祭”参加作品という輝かしい……ってただ参加しただけかよ、ナントカ賞を獲ったんじゃなくて。

と、今回インターネットで久しぶりに『ドールズ』のビデパケを見つけて即一人突っ込みを入れたのだけれども、レンタルビデオ全盛期にはそうした惹句がホラー分野における太鼓判の役割を果たしていた。「アヴォリアッツ国際映画祭グランプリ作品」とかね。アヴォリアッツがどこにあるのかは未だに知らないけど。

そんな微妙な勲章を持つ人形ホラーの金字塔『ドールズ』において特筆すべきは、わずか78分という潔い上映時間だろう。一本の作品を前後編に分け、半年かけてだらだらと引っ張る昨今のメディアミックス型映画は『ドールズ』の爪の垢を煎じて一気飲みするように。

特にたった5分足らずの間に、成金趣味のダメな継母、継母の尻に敷かれるダメな父親、ダメダメ両親からジャマ者扱いされる不憫な一人娘という主人公一家の相関関係を必要最小限のセリフで説明する一方、ダメダメ両親がクマのぬいぐるみに食い殺される妄想シーンを挿し込むことでつかみはオッケー、と同時に「童心を忘れた愚かな大人はとことん酷い目に遭いますよ」という本作の寓意性をさらっと提示してみせる簡にして要を得たオープニングは圧巻である。

追加投入される殺され要員たちも、激しい嵐の夜に一宿一飯の恩を与えてくれた寛大な老夫婦への感謝など毛ほども感じていない、人んちで爆音ロックを流すわ、盗みを働くわ、やりたい放題のパンク姉ちゃんたちで、当然のごとく殺人ドールの餌食になる。

中でも人形たちが獲物の処遇について話し合うシーンは、アナログな特撮であるがゆえにリアルな悪夢を見ているような生々しさがあって、ぐずるお子様もピタッと泣き止むことだろう。

『死霊のしたたり』などで知られる鬼才スチュアート・ゴードン監督の演出力とサービス精神に唸らされる、私もお気に入りの忘れがたい小品だ。

『ドールズ』
監督:スチュアート・ゴードン
出演:ステファン・リー
製作国:アメリカ
製作年:1987年
上映時間:78分

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とら猫 aka BadCats
メジャー系からマイナー系まで幅広いジャンルの映画をこよなく愛する、猫。本サイトでは特にホラー映画の地位向上を旗印に、ニンゲンとの長い共存生活の末にマスターした秘技・肉球タイピングを駆使してレビューをしたためる。商業主義の荒波に斜め後ろから立ち向かう、草の根系インディー映画レーベル“BadCats”(第一弾『私はゴースト』)主宰。twitter@badcatsmovie
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