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ヒューマン

死から照射される生の喜び。『岸辺の旅』

死から照射される生の喜び。『岸辺の旅』

©2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

私は、50歳を前にして未だに「死」が怖い。

誰しも、子供の頃に初めて「死の概念」を知って恐怖におののいた経験があると思う。しかしいずれその恐怖と折り合いをつけていくか、もしくは単に忘れていく。それが普通の大人だ。そういう意味で私は大人になりきれていないのかも知れない。でもホントに怖いんです!

そんな私にとって『岸辺の旅』は救済であった。

死者が幽霊として現れて生者と邂逅することを描いた映画は、珍しくはない。が、黒沢清作品の場合、事情がちと違う。

黒沢清はホラー映画を数多く手がけてきたこともあり、「幽霊をどう出すか」ということに関して様々な表現を試みてきた芸術家である。
それらの試みの集積として本作で造形された幽霊は、わけのわからない存在としての怖さと長年連れ添った夫としての親しみの両方が絶妙の按配で描かれていて、見事というしかない。いやもう、これこそが幽霊ですよ!見たことないけど。
それゆえ、幽霊の夫と生者の妻が旅をしながら生前に伝えられなかった思いを分かち合う様を描いた「岸辺の旅」の世界に、なんの躊躇も違和感もなくどっぷりと漬かることができるのである。

さて、旅に出てまもなく、いずれ夫はいよいよ「あの世」に旅立って永遠の別れをとげることになるだろうという予感がつきまとうことになる。本当に悲しくて切ない。しかし同時に美しい。
そしてこの夫婦の旅を追体験することによって、私の「死の恐怖」は「生の喜び」に転化されたのだ。まさに救済の体験でした。黒沢清監督に心から感謝したい。

「この映画はいつか終わる」とわかっていながら映画を観ることは、それが素晴らしい映画であるほど悲しい。しかし同時に映画の一瞬一瞬を心から味わうことができる。
まるで人生そのものではないか。

『岸辺の旅』
監督:黒沢清
出演:浅野忠信、深津絵里
製作年:2015年
製作国:日本、フランス
上映時間:128分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、今年2018年はいよいよ東京でも上映会を主催します。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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