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フランス人オールキャストでも黒沢清クオリティは微塵も揺るがない。
黒沢清は安心して鑑賞に臨める数少ない映画作家だなと、冒頭からして思う。
駅に着いた列車。パリ郊外とおぼしき街を歩く主人公ジャン(タハール・ラヒム)の後ろ姿。やがて現れる廃墟めいた洋館。つかみはOKだ。
洋館に入るやさっそく扉が勝手に開き、幽霊がゆっくりと螺旋階段を上っていく光景に出くわす。観ているこちらも静かに、しかし一気にボルテージが上がる。
冒頭わずか10~20分程度で一気に作品世界に没入することができる手際はお見事の一言に尽きるのだが、フランス人が演じるのだから…という訳のわからぬ理由でそんなに怖くないだろうと勝手に油断していた。もうほんとに油断そのもので、冒頭から一気に恐怖ゾーンに入るなり、比較的長尺な131分の間終始緊張を強いられることになる。
不快ではない。むしろ上質な恐怖と言ってもよい。
でも怖いです。相当。
心臓が弱い人は観ない方がいいかも知れない。
黒沢清の恐怖演出が筋金入りであることは間違いないので。
白眉は「階段」だ。
雨漏りの水滴が滴るじめっとしただだっ広い作業場に、やたら存在感のある階段が鎮座している。
もちろん計算されつくした照明が当たっているからこその存在感なのではあるが、不気味な薄暗い空間内で幽霊と緩慢な追いかけっこをしている中に佇むその階段の威容たるや相当なものだ。
絶対ここでなんかある、と思ってると、やっぱり起こるのである。決定的なできごとが。
注目すべきはそのできごとが起こるちょっと前、本当に絶妙のタイミングで暗がりの中に何かが落ちてくるのである。初見の時にはノイズかなと思ったのだが、インタビューで確認のうえ再見時に注意して見たところその正体は「埃」だった。
意味はどうでもよい。
埃が落ちてくる→できごとが起こる(ネタバレしたくないんでまどろっこしい言い回しになってすみません)、そのタイミングがとにかく怖いのである。
その事件をキッカケにある登場人物の「性質」が完全に変わってしまうのであるが、それは観てのお楽しみ。
モノトーンで色彩統一された冬のパリ。
寒々とした美しい空気感。そして恐怖。
ぜひ楽しんでください。
『ダゲレオタイプの女』
監督:黒沢清
出演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ
製作年:2016年
製作国:フランス、ベルギー、日本
上映時間:131分