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仙台に未来の映画館を創る『館長日記』と『シネマレビュー』

サスペンス

いろいろ嫌だがそれが人間というものかも『エル・クラン』

(C)2014 Capital Intelectual S.A. – MATANZA CINE – EL DESEO

1982年のフォークランド紛争(マルビーナス戦争)を機に軍政権が倒れ民主化へ傾くアルゼンチン。この激動の中で秘密警察の職を失ったプッチオ家の家長アルキメデスは「誘拐ビジネス」に手を染めてゆく。
裕福な家庭の近親者を自宅に監禁。金を受け取るなり殺害という凶悪ぶりだ。

数々の犯行は同時代のアメリカのヒット曲に乗って軽快に進められる。観ているこちら側もなんかノってきちゃうのだが、ここが本作の意地悪いところで、犯罪に結構高揚しちゃうし、できればこれらの犯行がバレないで、アルキメデスの家族も安泰だといいなとか思ってしまうのである。
ハっと気付くと犯罪に加担する側にいるというバツの悪さったらない。

それにしてもアルキメデスが不愉快だ。
この男、ブレないのである。悪い意味で。
悪いことをしているという自覚がまったくないどころか、家族のためという大義名分すら振りかざす。
いよいよとっ捕まった時の言い逃れがすごくて、自分がこんなことをしているのは国のせいであって、政権が変わらなければ自分のやっていることは正当だったと堂々と言い張るのである。
悪いことはみな他人や環境のせいであることをあからさまに主張する人間を目の当たりにする不快感ったらない。

家族は完全にアルキメデスの支配下に置かれており、アルキメデスの犯行を承知しながらも黙認し、犯罪行為で得た金でのうのうと裕福な生活を享受している。
この、強いものに依存して自らは責任を負わず、というスタンスが嫌だ。
それがそのまんま自分に当てはまるのではないかと思うに至った時の落ち込みようったらない。

犯行の手伝いをさせられている長男アレハンドロ。
それも彼の弱さというか芯のなさによってもたらされたことだから同情はしないが、しかしラストシーンで彼は身を挺して一矢報いる。一瞬訪れたかすかなカタルシスはしかしエンドロールの直前に木端微塵に打ち砕かれる。
この映画は実話がベースになっているのだが、アルキメデスのモデルとなった人物は服役中に弁護士の資格を取得し出所した、というテロップが流れて映画は終わるのである。
あんだけやって処刑されないのかよ!!と心の底からガックリきて劇場を後にすることになるのだ。

『エル・クラン』は、人間とは弱く、ズルく、汚い存在であり、もちろん自分とて例外ではないよ、他人事じゃないんだよ、ということと向き合わせてくれる。
嫌な作品ではある。

『エル・クラン』
監督:パブロ・トラペロ
出演:ギレルモ・フランセーヤ、ピーター・ランサーニ
製作年:2015年
製作国:アルゼンチン
上映時間:110分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!

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