c)2024『違国日記』製作委員会
2024年は劇場で101本鑑賞。
駄作もちょいちょいあった2024年でしたが、一定数の駄作があってこそ見るべき価値のある映画がある。
それではベスト10いってみよう!
2024年新作ベスト10
第1位
『違国日記』
(瀬田なつき)2024年:日本
自然と不自然のちょうど境目みたいな、研ぎ澄まされまくったセリフ。泣かせどころっぽいシーンはサラっとクールに描きつつ、不意になんでもないシーンで鼻の奥がツンと刺激され、最後に感極まる。
第2位
『夜明けのすべて』
(三宅唱)2023年:日本
ちょっとした盛り上がりを引っ張らずにパッパと切って淡々と進む端正なカットの連なりにより、可及的速やかに映画の世界に引き込まれる。公開当時(2024年初頭)映画の最新型。
第3位
『エドガルド・モルターナ ある少年の数奇な運命』
(マルコ・ベロッキオ)2023年:イタリア
2つの宗教、人種、イタリア統一の動乱など、個の力の全く及ばない力の中で翻弄される人間を、誰に肩入れするでもなく突き放した眼差しで語り切る。ロケーション撮影と照明の美しさ。
第4位
『瞳をとじて』
(ウ゛ィクトル・エリセ)2023年:スペイン
3時間近い尺で会話劇中心ながら、会話している人物を交互に見せているだけでおもしろく、全編において緊張感が途切れない。切り返しの凄み。映画の奥深さを堪能。
第5位
『娘の娘』 ※東京国際映画祭にて鑑賞
(ホァン・シー)2024年:台湾
時制をかなりいじっているが、赤・青・黄色の色調で切り分けて交通整理。シルヴィア・チャン渾身の芝居。祖母→母→娘→娘の受精卵、と連綿と連なる一大叙事詩の静かな迫力。
第6位
『WALK UP』
(ホン・サンス)2022年:韓国
4階建てアパートを階層ごとに区切り、アパートの階層と映画の章立てが照応しているスタイリッシュなつくりだが、章と章を繋ぐ時系列が変で、パラレルワールドとも夢ともとれる不思議な味わい。
第7位
『Cloud クラウド』
(黒沢清)2024年:日本
たかが転売ごとき小悪でさんざんな目に遭う理不尽がいい。活劇のおもしろさとリアリティ描写の雑さとのギリギリの境界に成立している奇跡。
第8位
『フェラーリ』
(マイケル・マン)2023年:アメリカ
過去に親しい者が亡くなった時に学んだ術により、感情をほとんど表さない主人公の佇まいが味わい深い。事故シーンの比類なき厳しさ。
第9位
『トラップ』
(M・ナイト・シャマラン)2024年:アメリカ
アリーナでの大規模コンサートの臨場感と、シャマランの長女扮する歌姫の存在感。舞台立てをしっかり用意したうえで綿密に練り上げられたミステリーが進行していくのだからおもしろくないわけがない。
第10位
『カラオケ行こ!』
(山下敦弘)2023年:日本
冒頭の雨でずぶ濡れのヤクザの背中と合唱祭のカットバックの様で、この作品は信用できると確信。ウェットとシリアスからほどよく距離をとりながら極上のコメディを演出するプランニングと演出力の確かさ。
続きまして、(8~10位についてはおもしろかったかと言われると微妙なんですが)表現に対するこだわりを感じた作品ベスト10!
2024年新作:印象に残ったベスト10
第1位
『スユチョン』 ※東京フィルメックスにて鑑賞
(ホン・サンス)2024年:韓国
この監督のいつものことだが、ほぼ会話を捉えることに終始。結果立ち現れる多元宇宙を前に呆然とすることとなる。
第2位
『『何処』Where(何處)』 ※東京フィルメックスにて鑑賞
(ツァイ・ミンリャン)2022年:台湾
主にパリの雑踏を背景に、異様にゆっくり歩行する行者のシーンが続く。徐々に睡眠にいざなわれるが、カメラが回っていることに気づいていないと思しき人たちが行者に絡んでくる時に不意に緊張を強いられる。それら緩急のリズムが変で、未だかつて見たことがないものを見たという印象。
第3位
『Chime』
(黒沢清)2024年:日本
じめじめした湿気と異様な緊張感が続く。黒沢演出に関しては既視感しかないのだが、恐怖要素のみで構成された50分は圧倒的に濃密。
第4位
『左手に気をつけろ』
(井口奈己)2023年:日本
コロナアンサー最適解。世界の大問題を軽くいなす井口奈己の絶妙な手つき。実験作という印象だが鋭い批評性を内包しており見応え十分。
第5位
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
(呉美保)2024年:日本
カメラは全編手持ちだが、キメどころの1箇所だけ固定。このプランニングが潔い。終盤涙腺が緩みまくり、エンドロールの母が息子に宛てた手紙に書いたであろう内容を英語で歌う歌詞の字幕表示で涙腺決壊。
第6位
『春をかさねて』
(佐藤そのみ)2019年:日本
ジャーナリストが被取材者に臨む無意識的な無神経を見事に表現。意識的に悪意を描く意図はなく、監督自身が被取材側にいた時の取材者の様子をつぶさに観察しかつ克明に記憶していたものと推測。
第7位
『リンダとイリナ』
(ギョーム・ブラック)2023年:フランス
人物たちの奇跡的な表情や仕草がバンバンカメラに収められている。相当の時間カメラをまわしたか演出めちゃくちゃ手だれているかその両方なのか。濃密なる短尺(38分)。
第8位
『雨の中の慾情』
(片山慎三)2024年:日本
夢と現実をいったりきたりする頻度が今まで観た映画史上ダントツ1位であり、作品内の夢と現実の区別が崩壊。なんでかはわからないがそこまで夢と現実の反復に執着したことに脱帽する。
第9位
『若き見知らぬ者たち』
(内山拓也)2024年:日本
頭の狂った母親の引き起こす目を覆いたくなるなるようなトラブルの数々と、フラフラになりながら生きているのに尚且つ定期的に酷い目に会う主人公の姿をこれでもかと見せつけられる。嫌がらせスレスレ。
第10位
『ルート29』
(森井勇佑)2024年:日本
ファンタジックな話をうまく手繰り寄せることができず見ていて少々辛い。お話はやや破綻しているが、画として何をどう見せるかを第一に考えて作った代償と解釈すれば、強い画の数々に瞠目する。
最後に、2024年、劇場で観た旧作のベスト10!
旧作ベスト10
第1位
『ゴングなき戦い』
(ジョン・ヒューストン)1972年:アメリカ
主人公は恨みつらみに拘泥し、目の前のことに、生活そのものに向き合えないまま終幕を迎える。その、どこで切ってもいいんだがとりあえずここで切った的な幕切れから漂い続けるやるせなさの余韻。
第2位
『草の葉』
(ホン・サンス)2018年:韓国
元々短めの作品多めの人だけど、これだけ短い(66分)とこの監督の先鋭的な部分がクッキリ出るなあ、と思った。めちゃくちゃトガってて刺激的。
第3位
『デ・ジャ・ウ゛ュ』
(ダニエル・シュミット)1987年:スイス
再見だが1シーンたりとも憶えておらず新鮮な気持ちで鑑賞。唐突かつアトランダムな過去シーンの出現が素敵すぎるが、思ったより現代パートが多めで、80年代映画としての雰囲気も十二分に堪能。
第4位
『人情紙風船』
(山中貞雄)1937年:日本
構図、人物の出し入れ、カッティング…。どこをどう切り取っても傑作としか言いようがない代物。
第5位
『宝島』
(ギョーム・ブラック) 2018年:フランス
プールに不法侵入する子供たちのオープニング。すぐバレて捕まる。子供たちとナンパする若者たちを中心に描かれるが、次第に移民たちに焦点が当てられていく。ラストの園内に入れない兄弟が印象的。
第6位
『ミレニアム・マンボ』
(侯孝賢)2001年:台湾
冒頭および途中に挿入されるスローモーション、および音楽で雰囲気を稼ぎまくる。基本的に暗い室内劇を長回しで撮るというスタイル。夕張のシーンを随所に入れ込むことで映画の出来上がり。シンプル!
第7位
『だれかが歌ってる』
(井口奈己)2019年:日本
このような作品なら自分でも作れちゃったりして、といったフレンドリーな装いだが、もちろん選ばれし才人しか撮れない御業。
第8位『阿賀の記憶』
(佐藤真)2004年:日本
『阿賀に生きる』の撮影現場を10年後に再訪するドキュメンタリー。10年にわたって人々が残した痕跡と10年前の映画作りの記憶が重なる。それを20数年後にスクリーンを介して見つめる不思議な感覚。
第9位
『アニエスv.によるジェーンb.』
(アニエス・ウ゛ァルダ)1988年:フランス
アニエス・ヴァルダならではのイメージと色の氾濫に彩られ、映画を作る喜びに溢れかえった作品。少々退屈ながら、ヴァルダとバーキンの強い信頼関係が見てとれて好ましい。
第10位
『14歳の栞』
(竹林亮)2021年:日本
埼玉県のとある公立中学校の1クラス35名の生徒を全員おおむね平等に描き切らんとする荒業。編集がさぞかし大変だったろうとおもんばかる。
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