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特別企画

2023年劇場公開作ベスト17

2023年劇場公開作ベスト17

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新作ベスト10としたかったのですが、どうしても絞り切れず、まもなく年を越しそうなので選定の時間切れということで12本挙げちゃいます。
(この作業をとっとと終わらせて早く酒を飲みたいというのもある)

2023年劇場公開新作ベスト12

第1位
『ファースト・カウ』
(ケリー・ライカート)2019年:アメリカ
森の西部劇。歴史の土に埋もれた持たざる者たちの足跡は、ふたりの男が互いに見捨てぬ友情を掴み取ったうえで、約200年後、女性と犬に発見される。それが冒頭。時空を超えた円環する物語の世界の余韻にいつまでも浸っていたい。

第2位
『カード・カウンター』
(ポール・シュレイダー)2021年:アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン
無表情の登場人物たちと暗い画面。カジノとホテルのBAR、モーテルの部屋、車が走行する直線道路。閉じた場が繰り返し差し出され、主人公の抱える懊悩が淡々と、しかし確実に伝わってくる。

第3位
『フェイブルマンズ』
(スティーウ゛ン・スピルバーグ)2022年:アメリカ
生まれて初めて映画を観るスピルバーグ少年に映画のよさをとうとうと語る父母のセリフがまんま映画の原理を簡潔に語っているという見事な導入。映画を撮ることにハマると同時に孤独にからめとられてゆくスピルバーグ青年の心をジョン・フォードに拾わせるというラストには心底驚愕した。

第4位
『Pearl パール』
(タイ・ウェスト)2023年:アメリカ
前作「Xエックス」に続き、キッチリ計算されまくったウェルメイド劇。しかしながらその完璧に構築された世界からはみ出してくる熱量のすさまじさ。

第5位
『春画先生』
(塩田明彦)2023年:日本
2023年は記録的な日本映画不作の年と記憶されるだろう。その中で唯一屹立するのが本作。美しい反復に満ちた映画。

第6位
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
(デウ゛ィッド・クローネンバーグ)2022年:カナダ・ギリシャ
冒頭の海の超ローアングルと横倒しの舟で一気に引き込まれるこの映画の世界は、黄色っぽい色彩と独特の建築物に支配されていて観ていて陶然となるわけだが、そんな中でバカバカしさスレスレのお話が展開されていて、狂っていて最高だった。

第7位
『枯れ葉』
(アキ・カウリスマキ)2023年:フィンランド・ドイツ
この独特の色調はどうやって出してるんだろう。これみよがしなカッコイイ画はないのにすべての画が美しい。ウクライナ戦争批判を匂わすラジオ放送が煩わしかったのが唯一残念だが、まあ些末な問題だ。

第8位
『PERFECT DAYS 』
(ウ゛ィム・ウ゛ェンダース)2023年:日本・ドイツ
この映画は決して語らない。表情で語ることが出来る主演俳優を追ってさえいれば語らずとも観客は何事かを掬いとれるという確信が作り手にあるのだろう。「観ていればわかる」とでも言いたげである。

第9位
『ダーク・グラス』
(ダリオ・アルジェント)
2022年:イタリア・フランス
ホンの上でのヒネリとか演出上の盛り上げとかをどこまで真剣に練っているのか不明で、鑑賞後に残る確かな満足感の正体がまったくの謎なのだが、作り手のスタイルというか、「こう撮る」というのが盤石なんでしょう。

第10位
『バーナデット ママは行方不明』
(リチャード・リンクレイター)2019年:アメリカ
これがキメ画!みたいなのがなくて(私が気づかなかっただけかもしれないが)、カメラはストーリーと役者の芝居にひたすら奉仕する。おかげで大変見やすく、じっくり腰を据えて映画に対峙できたという実感が得られた。

第11位
『ヨーロッパ新世紀』
(クリスティアン・ムンジウ)2022年:ルーマニア・フランス・ベルギー
ルーマニアのとある片田舎における人種差別に端を発した騒動に、ヨーロッパにおけるルーマニアの立ち位置を織り交ぜて語る。重要なのはその内容でなく語り口。話の中身は複雑かつ混沌極まりないのだが、それがハッキリとではないが何となく鑑賞者に伝わってしまう老獪な語り口が圧巻だ。

第12位
『ママボーイ』
(アーウ゛ィン・チェン)2022年:台湾
過干渉の母を持つ奥手な30手前の男性と、娼館を仕切る40代女性(ドラ息子あり)のボーイ・ミーツ・ガールもの。割とシンドイ話だがオレンジと水色の対比も美しいカラフルな画でキレイに見せる。

さて、2023年はリバイバルが充実した年でもありました。
劇場で観た旧作から順位はつけず5本だけピックアップさせていただきます。

2023年劇場公開旧作ベスト5

『ルナ・パパ』
(バフティヤル・フドイナザーロフ)1999年:ドイツ・オーストリア・日本

タジキスタンの乾いた起伏に富んだ大地を人や馬や車が駆け巡る。舟が湖を何度も横切る。重厚な機関車が大地を切り裂く。セスナが低空で何度も掠めていく(これが悪魔の使いであることが後に判明する)。運動を思う存分愉しめる映画。

『エドワード・ヤンの恋愛時代』
(エドワード・ヤン)1994年:台湾
そこそこの長尺にもかかわらず1シーンたりとも気を抜けるカットがなく、永遠に観ていられる気分だったので、終幕があまりにも唐突に思えてびっくりしたほど。

『ドラブル』
(ドン・シーゲル)1974年:イギリス・アメリカ
見せる/見せないの取捨選択と簡潔なカット割り。職人気質の説明を省く演出から却って滲み出る狂気が謎であり魅力である。

『雨にぬれた舗道』
(ロバート・アルトマン)1969年:アメリカ
どう転がるかわからないストーリーがスリリングではあるものの本作の魅力はストーリーテリングとは別の次元にあり、それが何なのか説明はできないけれど、冒頭の女性が歩く様を捉えたカメラが素晴らしくそれだけで満足した。

『福岡』
(チャン・リュル)2019年:韓国日本中国
まったく先の読めない展開とも言えるし、何も起こらない映画とも言える。主演俳優3名のアンサンブルが素晴らしい。私が今まで観てきたどんな映画に似ていないおもしろさ、すなわちオリジナリティを堪能した。

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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