大きいことはいいことだ。
『スタング』はそんなスローガンを地で行くような、蜂が巨大化して人間を殺しまくるというだけの映画だ。寓意性や哲学性は皆無。ゼロ。ナッシング。通信簿の所見欄に「落ち着きが足りません」と書かれそうな小学生が考えたとしか思えない、いかにも大雑把な理由から突然変異した巨大蜂たちが、都合よく寄せ集められた冴えない人々を恐怖のズンドコに突き落とす。ただそれだけ。ネタバレの余地もない潔さ。
そこで思い出すのはギターウルフというロックバンドだ。彼らには「フジヤマアタック」という曲があって、正直、歌詞を読んでも、なぜフジヤマがアタックするのか(あるいはアタックされるのか)理解に苦しむのだけれども、一番を聴き終わる頃には心の底からフジヤマアタックしたくなっている自分がいるというあの感覚。
フジヤマがアタックしてもいいじゃない。蜂が大きくなってもいいじゃない。細かいことは気にせず、朝まで壊れたレコードみたいに突っ走ろうぜ! バディ(相棒)! 的な、理屈を超越したノリに満ちている。
この頭の足りない宴を引き締めるのが、我らがビショップことランス・ヘンリクセン翁だ。本作でも例によって、なぜ引き受けたのか分からない中途半端に重要な役柄を喜々として演じ、メタな笑いを振りまいて、物好きな我々B級映画ファンを楽しませてくれる。
ヘンリクセン翁の凄いところは、アル・パチーノとも共演している結構な大物であるにもかかわらず、「このキャラは最後まで死なないだろう」という予断をまったく寄せ付けないこと。映画によっては主役級の扱いでクレジットされていながら、いともあっさり殺されたりするので一瞬たりとも目が離せない。
クリーチャーたる巨大蜂の造形も申し分なく、「バカでかい昆虫がわらわら出てくる」という設定を聞くだけで胸がヒャッハーと高鳴ってしまう諸氏は、至福の90分間を過ごすことができるだろう。
人生の憂さを吹っ飛ばしたい方は今すぐ観るべし。
『スタング』
監督:ベニ・ディエズ
出演:マット・オリアリー、クリフトン・コリンズJr、ランス・ヘンリクセン
製作年:2015年
製作国:アメリカ
上映時間:87分
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