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ホラー

ぬめってナンボの『X-コンタクト』

ぬめってナンボの『X-コンタクト』


(c) カルチュア・パブリッシャーズ

CGに足りないものは何ぞや。

これを数え出したら十指に余るが、ことホラーという文脈では何を措いても「ぬめり感」ではないかなと私なんかは愚考する。

例えばかの名作『エイリアン』の主役たるビッグチャップの、ぬらっと黒光りする頭部。カーペンターの『遊星からの物体X』に登場するクリーチャーはいずれも、得体の知れないネバネバを痕跡として置き残していった。ああいった、図らずもナメクジに指先が触れてしまったときに感じるような、全身がぞくっと総毛だつ根源的嫌悪感をCGで表現できているホラー作品を、私は寡聞にして知らない。

確かにCG界にもおぞましいクリーチャーは存在するが、何かこう淡泊に感じる。存在感が希薄だ。

本作の監督は、そんなCG全盛の時代に敢えてアニマトロニクスや操演といった古典的な特殊技術を用いて、“本物の”クリーチャーホラーを撮ろうとした変わり者…否、今時珍しい映画職人である。

そんな頑固者が造るクリーチャーは言うまでもなく、ぬめっている。

スクリーミング・マッド・ジョージという名前に郷愁の念を抱いてしまう諸兄なら、粘着質な体液をまき散らしながら、ぬめらかに動き回る触手を見ただけで空腹が満たされるというものだろう。これらのクリーチャーはCGのような架空物ではなく、実際にそこに存在しているので、そのぬめりに触れた俳優たちが見せる嫌悪に満ちた表情も真に迫っている。心の底からイヤそうである。これはCGでは決して出せない味だ。

そうした生々しいぬめり感の素晴らしさに反して、正直、ストーリーや演出面では今一歩と言わざるを得ない。が、そこはそれ、寛容なるホラーファンであれば、我らがランス・ヘンリクセン翁の年季の入った渋い演技を見られることで帳消しとしたい。無論、『エイリアン』へのオマージュと思われるシーンもふんだんに盛り込まれているので、メタ的に楽しむことも可能だ。

本物のぬめり感に飢えている好事家(だけ)にお勧めしたい一本。

『X-コンタクト』
監督:アレック・ギリス
出演:ランス・ヘンリクセン
製作年:2014年
製作国:アメリカ
上映時間:82分

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とら猫 aka BadCats
メジャー系からマイナー系まで幅広いジャンルの映画をこよなく愛する、猫。本サイトでは特にホラー映画の地位向上を旗印に、ニンゲンとの長い共存生活の末にマスターした秘技・肉球タイピングを駆使してレビューをしたためる。商業主義の荒波に斜め後ろから立ち向かう、草の根系インディー映画レーベル“BadCats”(第一弾『私はゴースト』)主宰。twitter@badcatsmovie
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