
(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会
函館三部作の大トリということで舞台はもちろん函館。
僕のイメージする函館という地を感じさせる記号は坂やカモメに表れてはいたものの、主たる舞台は職業訓練校・キャバクラ・安アパート・動物園など、およそ映画的に豊かなイメージを喚起するとは思えない場で、しかし映画としたいいようがない艶めかしさを湛えた画面に触れることができて感嘆したし、それだけで『オーバー・フェンス』は僕にとって価値のある作品だ。
山下敦弘監督はもとより、キャメラマンの近藤龍人の仕事ぶりのおかげだ。彼らが精魂こめて作りあげた画面に接することができて本当に嬉しい。
職も家族も失い、職業訓練校で特にやる気もない大工の実習を終えた後、弁当と350ml缶ビール2本を買って帰るのが日課のようになっている白岩は抜け殻のような男だが、演ずるのがオダギリジョーである以上その艶やかさに魅かれないわけにはいかない。事実、精神的に相当アンバランスだが魅力的な「名前では苦労したけど名付けた親の頭が悪いだけ。だけど親を責めないで」と語る聡(さとし)という名のキャバクラ嬢(蒼井優)を惹きよせる。
舞台と役者が揃えばあとは二人の危なっかしい恋愛を見守っていればこのうえなく贅沢な映画を体験できるという、「映画を観るってこういうことだったよなー」という感慨をしみじみ噛みしめることのできる良作だ。
先月、仙台短編映画祭で千葉県を舞台にした塩田明彦監督の短編『昼も夜も』を観た。
上映後の質問タイムで「地方を撮ること」について監督に訊いたところ、「今の日本で東京の風景を撮っても絵にならないのは確かなのだが、地方を撮るのも試行錯誤」という答えをいただいた。
地方の風景にはショッピングモールとかコンビニとかTSUTAYAとかカラオケボックスとかマクドナルドとかスターバックスしかない。よって撮る価値ナシ!などと浅はかな僕は思っていたのだが、どう「撮る」かということが今問われているんだと気付かされた。
「撮る」ということは世界を「再現」するという傲慢極まりない態度ではなく、「世界にどう向かって行くか」ということなんだということを『オーバー・フェンス』に垣間見た気がしたし、だからこそ今映画を観ることが大事なんだと感じた次第である。
…なんてカッコつけた理屈をつけなくても自分はきっとサルのように映画を観続けるんでしょうが(サルを貶めているわけではありません。念のため)。
『オーバー・フェンス』
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:112分


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