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サスペンス

言わぬが花とは『エヴォリューション』

言わぬが花とは『エヴォリューション』

(c) Les Films du Worso, Noodles Production

足りないんだ、言葉がああああっ。

と、叫びたくなることは結構ある。特に仕事をめぐっての舌足らずは致命的で、例えばあるお客様から「あ、その辺はとら猫さんの団扇…じゃなかった、センスにお任せしますんで、ほんともう、好きなようなやっていただいて結構です。ケ・セラ・セーラームーン」と言われたもんで、実際に好きなようなやって納品ダンしたら「いや、これイメージと違うわ」みたいなことを言われて修正を余儀なくされ、余計に時間を食うなんて話はよく耳にするところである。

こういう人は往々にして皆まで言わなくても俺っちの言うことは伝わるよね、大人だから。空気読めるよね。と思い込んでいて、要は「言わぬが花」という美学を曲解して手を抜いているだけだったりする。

そういう人々は『エヴォリューション』を見て、真の「言わぬが花」の在り方を学ぶがよかろう。

『エヴォリューション』は恐ろしく寡黙な映画だ。たまの台詞も互いの名前を呼び合うといった程度で、ぼんやり見ていると何が何だか分からなくなるが、必要最低限の情報は映像から読み取れる作りになっている。口数は異様なまでに少ないが、上記の人物のように解釈の責任を丸投げすることはなく、規定の範囲内で解釈を敷衍するための基礎情報は随所に散りばめられている。

ゆえに本作の醍醐味は鑑賞後に「あのシーンはこういう意味だ」「あのプロップはあの象徴だ」とやいやい議論することにあろう。

ネタバレは避けたいので突っ込んだ話はできないが、少なくとも本作が「進化」をテーマにした映画であることは「エヴォリューション」というタイトルからも間違いのないところだ。

問題は何の「進化」であるかという点だが、核心に触れない程度に遠まわしに要約すると、個人的には「歪んだ進化を遂げた生き物を中心とする、箱庭的ディストピア映画」ではないかと考える。たぶん本作を観ていないと意味不明だと思うが、そういう映画なので仕方がない。メンゴ。

リンチやクローネンバーグとの親近性も論じられているが、少なくとも極端に寡言な作風はこの監督独自のものであろうし、その才能はオープニングで映し出される圧倒的に美しい海底シーンを見るだけでも明らかだ。

様々な解釈が可能な作品だが、どんな思考の飛躍ですら、最後には監督の想定範囲内に着地させられてしまうような強烈な引力を本作には感じる。

寡黙ではあるが、その枠組みは異様なまでに堅牢なのだ。

『エヴォリューション』
監督:ルシール・アザリロヴィック
出演:マックス・ブレバン、ロクサーヌ・デュラン
製作年:2015年
製作国:フランス、スペイン、ベルギー
上映時間:81分

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とら猫 aka BadCats
メジャー系からマイナー系まで幅広いジャンルの映画をこよなく愛する、猫。本サイトでは特にホラー映画の地位向上を旗印に、ニンゲンとの長い共存生活の末にマスターした秘技・肉球タイピングを駆使してレビューをしたためる。商業主義の荒波に斜め後ろから立ち向かう、草の根系インディー映画レーベル“BadCats”(第一弾『私はゴースト』)主宰。twitter@badcatsmovie
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