ひとつ極めたいと思っていること。
それは電話であれ訪問であれ店頭であれ、セールスのうまいあしらい方だ。
王道はやはり「取り合わない」ことだと思うが、例えば最近の訪問セールスの中には子連れで現れる策士もいて油断がならない。子供の前ではにべもなく断れないはずという心理を突いた、狡猾な手である。断ったこちらが何だか申し訳ない気持ちになる。ずるい。
そこで意外と効果的なのは、「ちょっとイッちゃってる振りをすること」だ。
例えば右手に持っていてるシャーペンをインターフォン越しに延々カチカチカチカチカチカカチと鳴らして、「あーもう、急いでるんだけどなー、錦鯉100人飼いてえ、祭りの散歩道」とか適当なことを言い並べると、相手は無言のまま引き下がったりする。
そこで「クリーピー」。思ったね、ぼく。これだ、と。この香川さんの演技をマスターすれば、この世に恐れるべきセールスは存在しなくなるであろうと。
はっきり言って上記のペンをカチカチ作戦は外連味が強すぎ、たとえ相手が引き下がったとしてもそれはおそらく「狂気」を感じたというより、「こんな馬鹿は相手にしてられない」と呆れられたからだろう。試合に勝って勝負に負けたようなものだ。
そうじゃないんだ、セニョリータ。ぼくはもっと華麗にセールスに打ち勝ちたいんだ。
そこで香川さんの演技だ。この正気のルートから20%逸れたような微妙な異質感。話がかみ合っていないようでかみ合っている、狂気との境界線上を這い進むようなフィーリング。これこそ、自分の追い求めているスタイルだと直感した。
嗚呼、このトークを極めたい。ピンポーン、と呼び鈴を鳴らすセールスマンが現れたら「卓球は間に合ってます、好きですけど」的な発言をして追い払ってやりたい。という思いが、映画そっちのけでメラメラと湧いてきた。
と、そんな話を家人にしたら、お前はすでに10%くらいずれているからドントウォーリー、と褒められているのか虚仮にされているのかよく分からない回答が返ってきたので、とりあえずちょっと危ない人っぽくニヤニヤ笑ってみた帰り道。
『クリーピー 偽りの隣人』
監督:黒沢清
出演:西島秀俊、竹内結子、香川照之
製作国:日本
製作年:2016年
上映時間:130分
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