(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
(ネタバレです。ご注意あれ)
本作の題名どおり、侵略者は散歩する。散歩しながら人類を侵略するのだという。たった三人で。ふざけた話である。
散歩して道行く人びとから「概念」とやらを奪って人間を理解することによって侵略は着々と進められているそうだ。が、彼らは「概念」集めに熱中するあまり本来の目的である侵略と違う方向にズレていっているようにも見える。滑稽といえば滑稽だ。
もっとも侵略者は「放っておいても人類はあと100年くらいで自滅」と分析しているわけで、だったらそもそも侵略などする必要はない。自滅を待てばいいまでである。
つまり彼らは侵略でなく収奪を楽しんでいるわけだ。奪われるものが金銀財宝であろうが概念であろうが、収奪される側に立てばこれほど腹立たしいことはない。
侵略者と地球人との間で揺れていたジャーナリスト(長谷川博己怪演!)は、一応地球人たちに警告するという義侠心を見せつつも、その街頭演説という手段に真面目に耳を傾ける人間など本作の舞台となる日本には存在しない。結果さっさと人類に見切りをつけて侵略者に手を貸し、ドローン戦闘機と1対1で対決するという本作で最もヒロイックでカッコいいシーンで大活躍をする。
地球側は(というか長澤まさみ演ずる一個人は、だが)切り札として「愛」という概念を用意する。
牧師(東出昌大の怪しさMAXの立ち居振る舞いが素敵)から受けた「愛」についての説明を侵略者(松田龍平)は理解できないと明言するシーンが前もって用意されているし、侵略者は明確な論理しか受け付けない性質であることも劇中で明示されている。
「愛」という概念が至高のもの、神々しいものとかじゃなくて「とにかくわけのわからないややこしいもの」という取り扱われ方をしているところが好きだ。
かくて地球は侵略の魔の手を逃れるわけだが、概念を奪われた人間たちの多くは社会的適応性を失っており、世界はよりひどい次元のカオスに放り込まれたわけで、一種の地獄である。
「愛」の力のもとに収奪されることを免れ、その結果人類の手元に残された世界は地獄である。なんてヒドイ世界の提示の仕方であろうか。
最高だ。
『散歩する侵略者』
監督:黒沢清
出演:長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己
製作年:2017年
製作国:日本
上映時間:129分
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