唯一無二。
今や常套句として使われすぎてその価値を失っている形容詞だが、1981年製作の幻の動物アドベンチャー『ロアー』は掛け値なしの「唯一無二」の映画だ。
だって真似できないもの。誰にも。
こうした動物映画では通常、動物たちを人間の意図に合わせて演じさせることに骨を折るケースが多いが、『ロアー』の場合、そもそも動物たちに演技を求めないという逆転の発想が素晴らしい。
好き勝手に振る舞っている動物たち――しかも猫や犬ではなく、トラやライオンといった猛獣たちの群れの中に俳優をぶち込み、暴れまわる動物たちに合わせて、ストーリーに沿った演技を繰り広げているのである。
こんな撮り方をしてまともな映画が撮れるのかと思うが、主演はヒッチコックの名作『鳥』で知られるティッピ・ヘドレン。共演は若き日のメラニー・グリフィスと芸達者が揃っており、この「暴れまわる猛獣たちの動きを見ながら、ストーリーに合うよう演技をする」という難題を、おそらく地球上でもっとも巧みにこなしてみせる。
さらに言うなら、撮影監督は後に『スピード』で名を馳せるヤン・デ・ボンだ。この無謀なアプローチによる危険すぎる作品を、確かなテクニックを感じさせるショットの数々でがっしり支えている。バイクを使ったスピード感あふれるシーンなどは、アクションを得意とする彼らしく、のちの成功を感じさせもする。
でも本作、日本で初公開されたとき(当時のタイトルは「ズ」がつく映画はヒットするというジンクスにならい、『ロアーズ』)は「ファミリー映画」として売り込み、大コケしたらしいが、むべなるかな。家族でわいわい楽しむにしてはプロットが弱い(というか、ない)し、「ファミリー映画」として観たら、当時の子供たちは喜んだかもしれないが、大人たちは「詐欺」だと思ったろう。
が、30年が経った今、あらためて見ると、本作がいかに時代を先取りしていたか分かる。
その象徴が、本作で監督が伝えようとしているメッセージだ。一見するとトンデモ映画に数えられる本作だが、その中で伝えようとしていることは「戦争反対、暴力反対、生き物は皆兄弟」という普遍的かつ誠実なテーマである。監督のジョン・マーシャルは動物たちを使い、自らも多くの引っかき傷や咬み傷を負いながら、このことを真面目に、真正面から伝えようとしているのが『ロアー』の真の姿である。
とはいえ、『エクソシスト』のプロデューサー、ジョン・マーシャルの想いが先走り、全体としては映画史上、類を見ないほど混沌としたパワーが充満する、プロフェッショナルたちによる怪作に仕上がっている。
噂には聞いてたが、久しぶりに「すげーモノみた」と呆然とした一本。撮影中には案の定、怪我人が大勢でたようで、ヤン・デ・ボンは頭の皮をライオンに剥がされ、200針も縫ったらしい。
が、これだけパワフルでワイルドな映画は昨今、お目にかかったことがない。
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