(C)Genuine Light Pictures
橋と川を捉えたファーストカット。次いでカフェの窓ごしの景色。風通しのいい画だなあと思って見ていたら以後ホントに風を感じ続けた。風が画面にちゃんと映っていた。
画に着目したのは最初の数カットだけである。以後、映画を観る、というスタンスでなく、自分も映画の中の人たちにも混じっているような感覚で時間を過ごした。人物の息遣いがあまりにもナチュラルなのでそのように感じたのかもしれない。
春原さん(「はるはらさん」と読むようだが、個人的には「すはらさん」の方が響きが綺麗な感じがして好み。ま、どうでもいいことだが)はとてつもない喪失を抱えて生きている。どういう経緯を経てそのような状態になったのか一切説明がないのだが、なぜか春原さんの心の状態がじわじわと伝わってくる。時折映り込む春原さんと同年代とおぼしき女性の姿から、この女性が亡くなったのかなと想像するばかりである。本作はそんな春原さんが仕事したり生活したり近しい人たちと語り合っている様を淡々と映し出す。春原さんと彼女を取り巻く人々が具体的にどういう関係なのかについてもやはり説明が一切なく、会話などから想像するのみである(そもそも主人公が春原さんと呼称される方なのかどうかも説明はない)。が、途中から、春原さんがこうなった経緯とか周りの人とどういう関係なのかとか、そういったことがどうでもよくなってきて、気づくと冒頭に記したように、自分も映画の中の人たちと同じ波長で映画の中に生きていたという次第である。
なぜこんなことになったのだろうか?肩の力を抜いてふわっと撮ったように見えるが、きっと画面造形とか演技プランとかを死ぬほど綿密に組み立てたのだろう。何の分析にもなっていないが、とにかく、本作は人が生きていることそのものが一切の説明なしで伝わってくるという、稀有な体験をさせてくれる作品である。
『春原さんのうた』
監督:杉田協士
製作年:2021年
製作国:日本
上映時間:120分
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