(c)2021『いとみち』製作委員会
本年初頭に飼い猫が体調を崩し、2021年は猫の世話と心配に明け暮れた1年でした。
よって平日は退社即帰宅というスケジューリングとなり、映画を観るのは休日の日中(猫の体調が悪い時は除く)限定。家から3~40分以内で行ける池袋・新宿・渋谷・有楽町・東武練馬あたりにパっと行って映画を観たらまっすぐ帰ってくるということを積み重ねたらそれでも映画館で89本の作品を観ることができました。
うち2回観た作品が4本、旧作が23本、昨年公開作品が5本ありましたので、表題の候補作は57本。
ここから「なんかノレなかった」「途中で集中力を欠いた」作品を除外したら25本になりました。とかく家を離れると猫のことが気になる精神状態で、基本映画には集中できない中、逆にきっちり集中して観れたこの25本が2021年の私にフィットした作品ということになるのかもしれません。そこから無理やり10本に絞りこんだのが以下のリストです。
では2021年新作公開映画ベスト10の紹介を簡単にさせていただきます。
第1位
『いとみち』
(横浜聡子)2021年:日本
ディープな津軽弁が聞き取りにくい。半分近く聞き取れてなかったかもしれない。でもちゃんと筋が頭に入ってきたということは映画の文法がキッチリできているということなんだろうが、何とか聞き取ろうと耳をそばだてることで却って画面に集中できたということなのかもしれず、それを狙って作ったとしたらすごい目論見だ。
第2位
『ドライブ・マイ・カー』
(濱口竜介)2021年:日本
劇中のホン読みのシーンで監督の演出法の一端が垣間見える。感情を一切排除してテキストをひたすら棒読みして言葉を身体の中に落とし込んでいくというものだ。言葉の力を信じ、言葉の力を最大限引き出すことで、約3時間にわたる長尺においてまったくとぎれることのない緊張感が生み出されたということなのだろうか。
第3位
『クルエラ』
(クレイグ・ギレスピー)2021年:アメリカ
エマ・トンプソンとエマ・ストーン。名優VS名優。それぞれが保守的なファッションと革新的なファッションをまとってバチバチの火花を散らす。その超絶ハイレベルな演技合戦に鮮やかな色彩が絡んで、クラクラくるような画が次々に展開される。心から心酔した。
第4位
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
(エメラルド・フェネル)2020年:アメリカ・イギリス
女性がたった一人で、社会に守られ体力的にも太刀打ちできない男たちに立ち向かっていく。女性は一見不敵に見える。が、ちょっと引いてみれば勝ち目のない戦いに挑む悲壮に胸が引き裂かれる。映画としての一応のカタルシスは用意してあるが、代償の大きさゆえそのカタルシスに酔うことはできない。徹底した悲しみをエンタテイメントに昇華させた恐るべき作品。
第5位
『ザ・スーサイド・スクワッド”極”悪党、集結』
(ジェームズ・ガン)2021年:アメリカ
冒頭の戦闘シーンで口あんぐり。私はいまいったい何を見させられているんでしょう?と思わず自分を振り返ってしまうような徹底したバカっぷりから、ラストの感涙にむせぶ大円団に辿り着くとは予想だにしなかった。もっともネズミたちの雄姿に感動する手合いは決して多数派とは思えず、本作にGOサインを出した製作陣の蛮勇に拍手を送りたい。
第6位
『子供はわかってあげない』
(沖田修一)2020年:日本
沖田修二監督作品なので安定して楽しめる作品に仕上がっているだろうと当たりをつけていたが、予想をまったく裏切らなかった。劇中用いられる数々の反復がシンプルかつ的確で痒いところに手が届く心地よさ。安心して映画に身を任せられた。
第7位
『最後の決闘裁判』
(リドリー・スコット)2021年:アメリカ
ストーリーが進まない第1部で景色、美術をじっくり堪能。城に斜めに近づく道がいい。雪がいい。白黒グレイの色調の美しさよ。ストーリーが加速する2部3部は逆に物語に流されて画面の見事さを見逃した。真実であると強調された第3部はあくまでもジョディ・カマーの見えている世界、つまり1部のマット・デイモン、2部のアダム・ドライヴァーの見えている世界と等価であると私には感じられた。#MeeToo等差別撤廃運動に配慮しつつきちんと映画的美を追求した作品と私は受け取り、深く感じ入った。
第8位
『君は永遠にそいつらより若い』
(吉野竜平)2020年:日本
雑然としたプロットが、あっちにフラフラこっちにフラフラといった感の主人公の足跡とマッチしているうえ、主人公が身の回りの人々と交わすセリフの一つ一つが心の襞に響く。きっとプロットもセリフも相当練り込まれているのだろう。丁寧に作られた作品特有のきめ細かい肌触りが心地よい映画だ。
第9位
『ファーザー』
(フロリアン・ゼレール)2020年:イギリス・フランス
映画を観ている最中、家に残してきた病気の猫のことをずっと思っていた。混濁し薄れゆく老人の記憶に、仮に病気でなくとも自分より早く死に向かう小動物の姿が重なったか。徹底した主観映像で描かれる老人の不確かな現実認識の描写は恐ろしく、ほぼほぼホラーと呼んで差し支えない領域に達した稀有な作品。
第10位
『テーラー 人生の仕立て屋』
(ソニア・リザ・ケンターマン)2020年:ギリシャ・ドイツ・ベルギー
車輪のついた椅子やカート類が執拗に映される。これが寂れた仕立て屋の店舗を飛び出して主人公がカートで行商に出る布石となる。手押しで大変そうだなと見ていたら、仕立てのために郊外に出向かねばならなくなり、どうすんのかと思っていたら(特に説明もなく次のカットで)バイクで牽引。ラストは車を運転してさらに遠くへ向かっていた。ストーリーテリングが巧みなのでなく、車輪の連なりの画が結果ストーリーになっているという企みの巧みさに唸った。
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