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The whole world” has been” watching!世界は見続けている!『シカゴ7裁判』

The whole world” has been”  watching!世界は見続けている!『シカゴ7裁判』

(C)Netflix映画「シカゴ7裁判」2020年10月16日(金)より独占配信
昨年2020年は専門家と言われる人たちの予測や予想が注目されることが増えました。そして年が明けても引き続いているようです。新型感染症の件は多くの専門家がマスコミに登場、超文系人間の自分には理系や医系の専門家の説明を検証するのはムリと思ってましたが、彼らも意外と数字やデータを読んでいなかったり、専門分野以外だといい加減だったり、特に毎日TV(東京の地上波)に出ているような方々には???です。アメリカ大統領選は当初、評論家達はトランプ有利の予想が大半だったという印象でした。経済が上手く回っていたからだと思っていましたが、新型感染症の件で躓きが始まり、バイデンが勝利と出たのち不正選挙という訴え、それでもトランプが劣勢を跳ね返す可能性を説く人たちもいましたが、(なんと!)年が明けて議事堂襲撃事件が発生しました。把握している状況だと現職大統領の支持層とされている人達が、大統領にSNSで煽られて相手側候補者の選出を妨害するため、なんと、ワシントンの議場に集団で押しかけ、一部を占拠。不幸なことに亡くなる方々まででるという始末。まだ体制側の現職大統領のINSURECTION(叛乱)という実に摩訶不思議な事件です。まあ相手側候補が勝てば内戦状態になると予想もありましたが、まさか2021年にアメリカの首都でそれに近いことが起きて、大統領交代の直後、扇動の責任で「元」職が弾劾裁判にかけられるところまで至ってしまったのは、驚きです。

『シカゴ7裁判』は実話ベース、1968年8月下旬の民主党大会時、反ベトナム戦争を訴えて全米各地からシカゴに集まってきた諸団体の約15,000人が公園内で銘々活動したり時には一緒に集会をやったりしていました。主立った別個の団体のリーダーは8名、彼らは事前にシカゴの公園の使用許可を行政に求める者もいました。場所を用意してくれないとかえって危険ではとまで真面目に交渉しましたが、当時のシカゴ市長 リチャード・デイリーは、6月にロバート・ケネディが暗殺されたこともあってか、「反愛国的な」グループが大会でデモを行う許可を拒否するということで、使用を認められませんでした。とはいうものの、シカゴへ向かう動きが止まることはなく、行き場はなかった為、結局公園に集まっていました。アメリカにはデモの目的で州越えて活動してはならないという法律があってそれによって、翌年ニクソン政権の時起訴されました。当初8名※なのに『7』なのは、すったもんだがあって、ブラックパンサー党のリーダーの起訴が途中取り下げられたからです。もともと彼らは別個の団体で今のように携帯電話もSNSもない時代のこと、今回の暴動のようにも事前に連絡を取り合ったり、動向を探ったりの共闘ということは困難なのに共謀罪で起訴されているわけです。公園内では警察の警備の行き過ぎをきっかけにデモ隊っぽくなったり、逮捕された仲間の釈放を求めて警察に行進途中警官隊と衝突。潜入していた警察官が意図的にアジったとかで、暴徒と化し制圧。ケガ人もでています。いかにも当時ありそうな展開で描いてます。

裁判は政治色の強い、まあ殆どそれしかない、「裁判ショー」みたいになっています。政府側の姿勢判事も臆面もなく政権寄り、(たぶん政府が)陪審員にも横やりを入れる、なりふり構わなさ、ヒドイ。被告側の戦術もあったものの弁護士がいない被告がいたのにそのまま裁判が進められる有様でした。名優マーク・ライランス演じる若作りのやり手弁護士も最初は被告たちに「政治裁判」と呼ばれるものはないと断言してましたが、いつの間にか自ら「さあこれから政治裁判だ」と認めてしまっている始末。
キャストは弁護士役以外も充実していて、被告側のキーマンにエディ・レドメインもう一人のキーマンにサーシャ・バロン・コーエン、エリート検察官にジョセフ・ゴードン=レビット.、その他アレックス・シャープ、マイケル・キートン、マイケル・キャロル・リンチ、フランク・ランジェラ等、演技派揃い、勝手な印象ですが、脚本や演出意図の理解度が高い俳優を配役している様に思います。実録モノにうまくフィクションを混ぜ込でいてスクリーンからの圧がこれでもかと観客に迫ってきます。

運動家といってもそれぞれスタンスがあり、政治家を目指す者、そんなことには目もくれずヒッピー的に運動に傾倒する者、暴力的な者、理性的な者と様々。実際事件当日頃の公園内では各団体で共催の集会もあったようですが、一方各々グループには不可侵の様子で盛り上がっている描写もありました。しかし裁判中、彼らは弁護士の用意した事務所で直接話をしたりケンカをしたり、口論したりどうにもならない展開に頭を抱えたりで、完全に運命共同体、公園より濃密な時間を過ごしたように描いています。例えば弁護士の戦術がはまれば皆で机をたたき、やはり一体感生まれます。そのことが判決内容以上に裁判中でのパフォーマンス、ひいては結審のあとの幕引きに影響をしたという流れになったと示しています。実際、同じ立場とはいえ当初は呉越同舟の感はあったでしょうが、彼らはアプローチは違っても目指すところ「ベトナム戦争反対」は同じで、分かり易い最大公約数的な目標はあるわけで、存在を脅かす共通の敵が眼前に現れれば結束はさほど難しくなかったということかもしれません。

劇中、検察官は政府のやり方に時々辟易した感じを出し始め、ブラックパンサー党のボビー・シールへの常軌を逸したと思える判事の扱い見て、このままでは逆効果になると判断して独断で起訴を取り下げました。同情的な雰囲気を出し、半ば相手に塩を送る形で、政府側であるはずの検察官の心も離れているように描写していました。ボビーシールも起訴されていた別件の殺人容疑の(不当)捜査の途中、ブラックパンサー党の仲間が捜査官に撃ち殺されることまで起こりました。実際は、最後まで攻撃的な検察官だったようですが、50年後から見たら検察の同情的な描写が不自然ではないくらいヒドイ扱いが法廷内外で実際にあったということで、一審の判決など云々より報道を含めて一般市民にはどう映ったか……と示しているのだと思います。不思議なのはニクソン政権の対応そのものです。起訴したのは大統領に就任した翌1969年3月、しかも民主党政権時代のことを、民主党政権時の法務省長官の見解を無視して起訴しました。昨今だけでもないと思いますが、敵対勢力が分断されている方が多くの為政者に都合が良いのは明らかなこと。普通こういった運動を弱めるのは「分断」なのにわざわざ別個の8団体を集めて起訴、共闘する機会まで与えてしまっているわけです。ゲリラ戦を行う敵を集めて一網打尽というのはそれこそベトナム戦争と間違えているんじゃないか、マスコミの監視や国民の目があって、特に自由を重んじる国柄では逆効果になると思わないかということです。この3年後ニクソンは相手方の政党の建物に盗聴器を仕掛けるという映画にもなった分かり易い愚行をきっかけに退陣しますが、この一件が政争とか支持層に注力して、一般国民の感情と乖離している部分を象徴しているのかもしれません。「The whole world is watching!(世界が見てる!)」という被告側の実際の標語が登場しますが、今でも通用しそうな、当時はなおさら斬新な言葉だったでしょう。作り手のメッセージとも思えます。1961年ケネディとニクソンの大統領選でのディベートは初めてTV中継されて、この時は「全米が見ている!」という状態でこれはこれで画期的で、テレビのライトに大汗をかいたニクソンは制汗剤を使って涼しい顔をして余裕を演出したケネディに敗れました。そこから10年もたたないうちに「世界が見てる!」という状況になったわけで、敗因がよくわかっていなかったのでは?という結果に思えます。

この作品は、新型感染症の影響で劇場公開が見送られ、NETFLIXでの公開、日本の劇場で先行限定2週間の公開でした。裁判室全体を俯瞰した場面とかあり映画館向けに作られたと思います。アカデミー賞の有力候補にも挙げられています。ただ、構想や脚本は10年以上前からあったようで、当初はスピルバーグが監督の予定だとか、その後監督候補者の名前もいくつか挙がる中ヒース・レジャーなど名だたる俳優達の名前が挙がったとかあったようで、ここにきてようやく日の目を見ました。映画の製作が頓挫しながらも、たぶん紆余曲折も経て、ここまで企画が残ったのはそれだけ魅力があった証拠とも言えます。一連の出来事は約50年前、半世紀も前のこと、ですから例えばオバマ政権下で公開されることになれば昔を回顧する感の強い印象にたぶんなったでしょう。確かにほとんど男性しか登場しないなど古さを感じる部分もあります。しかし普遍的な部分、権力の暴走への嫌悪感、不快感は時代に関係なく共感を呼ぶところです。さらに加えて、ここに来て、アメリカは開票後結果も含んだ大統領選と新型感染症、日本では突然の首相の交代、感染症の(というよりむしろその対応による)影響、再度の緊急事態宣言があったり、社会が揺れてワサワサしている状況は、作品が発する騒がしさや、激動のイメージと相通ずるところがあります。単に若者だけでもないようですが、権力の横暴や他国への干渉に疑問を感じて行動を起こした登場人物たちから感じる、波動、エネルギーを強く感じながら、私はちょっと羨ましさを覚えていました。今回の大統領選の時期の公開は明らかに狙っていたようで、たとえ映画館での公開が見送られても、政治的な危機感から配信でもこの時期に公開したいという意図が働いたのだと思います。

今やアメリカの大統領選の候補者のディベートを同時通訳のライブで、新感染症の対応で聴衆がいなく異例の(レディ・ガガの国歌独唱付き)大統領就任式も生中継で視聴できる時代になりました。ミャンマーの国軍クーデターも軍はSNSで規制していたって映像や写真や情報は(決死の思いの)市民から伝わってきています。「The whole world is watching!」はもはや当たり前になっています。映画として『シカゴ7裁判』の一連の出来事を呼び起こし、現代にもう一度投げかける意味ではこの作品もWatchingの対象の一つと言えるでしょう。元々「映画を見る」も「WATCH THE MOVIE 」です。この注目の事件を、印象深いカタルシスのあるエンターテイメントとして楽しめる作品に仕上げ、劇映画にした意味は大きいと思います。作り手の意図もはっきりしますし、何より当時起こった現象の一端を多くの観客、視聴者が目撃できることに意味があるからです。ウォーターゲート事件とかゲーリー・ハートの選挙戦とか9.11等と同様に今回のアメリカの暴動もいずれ何らかの視点で映画化やドラマ化されるでしょう。人が集まって騒いだ光景として圧とかパワーは感じましたし、インパクトも大でした。TVで見聞きした参加者の年代とか主張からすると、何かを守るための闘いであり、権力や何かを攻めて崩そうとした1968年の事態とはその点が随分違っているような印象です。1968年から始まる「The whole world is watching!(世界が見てる!)」は以降引き継がれ、「The whole world has been watching( since then)!」世界は(あの時以来)見続けている!と、これからも数々の事件、ターニングポイントを様々な視座で目撃していくのだと思います。

※8名はアビー・ホフマン、ジェリー・ルービン、トム・ヘイデン、レニー・デイビス、デイビッド・デリンジャー、リー・ウエイナー、ジョン・フロイネス、ボビー・シール
※Abbie Hoffman, Jerry Rubin, Tom Hayden, Rennie Davis, David Dellinger, Lee Weiner, John Froines, and Bobby Seale

2020年製作/130分/G/アメリカ
原題:The Trial of the Chicago 7
配信:Netflix
2020年10月9日映画館公開

監督/脚本
アーロン・ソーキン
製作
マーク・プラット
撮影
フェドン・パパマイケル

キャスト
エディ・レッドメイン
アレックス・シャープ
サシャ・バロン・コーエン
ジェレミー・ストロング
ジョン・キャロル・リンチ
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世
マーク・ライランス
ジョセフ・ゴードン=レビット
フランク・ランジェラ
マイケル・キートン

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1966年生名古屋出身、東京在住。会社員。映画好きが高じてNCWディストリビューター(配給・宣伝)コース、上映者養成講座、シネマ・キャンプ、UPLINK「未来の映画館をつくるワークショップ」等受講。青山学院ワークショップデザイナー育成プログラム修了。転勤で暮らした札幌に映画館を作りたいという野望あり。
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