主人公フィリップ(ブノワ・マジメル)は真面目を絵に描いたような好青年。
家庭内の瑣末ないざこざを諌めたり、母に対して不誠実な母の恋人に苛立ったりとなんだか気が休まらないけど、小さなリフォーム会社の営業マンとして気忙しいながらもマジメに働いている。
パっとしないがごく普通の生活を維持している。
しかし一方フィリップは、亡き父が母に贈った女性の顔の石の彫像を偏愛しているというところがちょっと??な感じで、観ていて軽い(あくまでも軽くだけど)違和感を覚える。
また、女手ひとつで育ててくれた母親を気遣うのはいいのだが、母と息子の間に時折立ち上る妙に濃厚な愛の空気にぎょっとさせられたりもする。
そういう、喉に魚の小骨がささったような違和感を携えながら、しかし物語は淡々と進む。
そして運命の女性と出会ってしまう。
この、センタ(ローラ・スメット)という奇妙な名前の女性の登場シーンはある意味衝撃的だ。
なんというか…魅力がないのだ。一言で言うとイカツイ。フィリップがなんで惚れてしまったのかさっぱり理解できない。しかし、逢瀬を重ねるうちに、時折ふっとやわらかな笑顔を垣間見せてくれたりして、それにヤられる(僕も)。しかも言動がいちいち不思議ちゃんで、例えば愛の証明としての4ヶ条とやらを突きつけてきたりする。
① 木を植える、②詩を書く、③同性と寝る(?)、④人を殺す(!?)
というものなのだが、フィリップは④に乗ってしまう。
危険な恋のスパイスになりうるとでも捉えたのか、「人を殺した」という他愛もない嘘をついてしまう。
これが命とりとなり、「なんでこうなってしまったのか…」というラストに導かれていく。
さてなんでこうなってしまったのでしょう?と、終映後僕は自分のこととして考え込んでしまった。
思うに、フィリップは選択を誤ったわけではないのである。
淡々と維持されている安定した生活は、いつ破綻してもおかしくない儚い日常なのであって、いつ何時自動車が歩道に突っ込んでくるとも、癌の宣告を受けるともわかったものではないのだ。
そういう日常と破綻が背中合わせであることを見事に描いて見せてくれるところが、『石の微笑』のイジワルさであり、素晴しさであり、クロード・シャブロルの手腕の見事さなのである。
『石の微笑』
監督:クロード・シャブロル
出演:ブノワ・マジメル、ローラ・スメット
製作年:2004年
製作国:フランス、ドイツ
上映時間:107分
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