デヴィッド・クローネンバーグの近作に麻薬的にハマっている。
インテリと変態が絶妙に共存していて、端正な作風ながらグロい。
イヤだヤメて~と思いながらも暗黒面にひきずりこまれていく感覚に、なぜか忘れがたい感興を催されしまうのだ。
『コズモポリス』は、独特のリズムと陰影の濃い美しい映像がスタイリッシュだが、人物の内面へ内面へと潜行していく手つきが非常に変態で、その不安感に終始苛まれることになる。
28歳にして金融業で成功し巨万の富を築いたエリック(ロバート・パティンソン)は、ハイテク装備満載のストレッチ・リムジンをオフィス代わりに、今日もニューヨークの街中を走りまわっている。
ただ、今日は大統領のパレードがあり、それに呼応した民衆のデモが沸き起こっていて街中は大渋滞。かくしてノロノロ運転の車中が本作の主な舞台となる。
このノロノロ運転のスピード感がいい。
デモの喧騒から隔絶された静謐で清潔な車内の空間は見ているだけで快適で、安心感を与えてくれる。
ふと横に泊まったタクシーに新妻(サラ・ガドン。美しい!)が乗っているのを見かけてスルリとタクシーに乗り換えたりする。そういうちょっとした自由さが観ていて気持ちいい。
車には従業員や愛人が入れ替わり立ち替わり乗り込んでくる。交わされる会話は禅問答のようだ。
次第に映画はエリックの心の襞に分け入り、何ともいえない不安感を醸し出し始める。
この過程で、エリックは中国元取引で壊滅的な損害を蒙り、破産寸前であることも明らかになる。
医者も診察で車に乗り込んでくる。
触診で「前立腺が非対称」であると告げられて動揺する様が滑稽だ。
が、この言葉に僕も動揺する。
美しいフォルムとシンメトリーを持った車中の空間に身を委ねていた僕の心に波紋を投げかけられた気がするからだ。
やがて車はデモ隊にスプレーで落書きされ、打撃でボコボコにされる。
僕は不快になる。
恐らく僕はストレッチ・リムジンにひきこもりたくなっており、その聖なる空間を凌辱された思いなのだろう。
やがてエリックは、パイを投げつけられたりして自身の外見もすっかりみすぼらしくなり、ついに車から抜け出して汚い廃屋に紛れ込み、自らの手のひらを銃で撃ちぬき、彼を脅迫しつけ狙い続けていた元従業員に銃を向けられるところで映画は幕を下ろす。
『コズモポリス』は、安心安全の空間から引き摺り出されてボロボロになっていく恐怖と不快感を存分に味あわせてくれるイヤな映画だが、同時に忘れ難い余韻を残してくれる。
その忘れ難さの答えが見つからなくて、今日も僕はDVDを観返してしまうである。
『コズモポリス』
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ロバート・パティンソン、サラ・ガドン、ポール・ジアマッティ
製作年:2012年
製作国:フランス、カナダ
上映時間:110分
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