人と対峙…しないよなぁ。自分。
人と向き合うことを避けて48年間生きて来ました。
しかしそのことを自分で自覚しているがゆえに、対峙する人間の神々しさをスクリーンに見て滂沱の涙を流すという比類なき感動を味わうことができたのかもしれない。
冒頭、カメラは長回しで本筋とは関係ない男を追う。
やがてリッツのラウンジに入った男の視線の先には、真剣なまなざしで向かい合うキャロル(ケイト・ブランシェット)とテレーズ(ルーニー・マーラ)。
テレーズと顔見知りとおぼしき男は、彼女に気安く声をかける。
対峙する二人の対話の切断。
このシーンはラスト近くにもう一度再現され、観客は二人の対話の切断を二度体験することになる。
そこに至るまでの二人の時間の重みを共有してきた者としては、男の介入によって対話を断ち切られることに心の底から(さらに心の中で100デシベルもの「チッ」で)舌打ちすることになった。
僕の映画鑑賞史上、稀に見る邪魔者!
それにしてもキャロルが美しい。
顔がキレイというよりも、その「目」だ。
見つめられたら逃れることのできない「運命」を携えたかのような目。
テレーズは若く、将来の不安からだろうか、終始ふてくされたような表情だが、曇りのない瞳が印象的だ。
テレーズの瞳はまっすぐにキャロルに向けられている。時にカメラのファインダー越しに。時に車の窓越しに。
キャロルの親権問題等があって、いったんキャロル側からやむなく関係が絶たれる。
しかし久しぶりに出会った時、二人は自分が何者なのかを知った者(=自立した個)として対峙していた。それが二人で向かい合っている冒頭およびラスト近くでのシーン。
だからこそ二人の対話を妨げた闖入者が許せないのだ(しつこくてすみません)。
しかし映画にはまだ続きがある。
テレーズはその後心の中で静かに決断し、再びキャロルのもとに向かう。
例の眼で「来たわね」てな感じで見つめ返すキャロル…
その後二人がどうなるかはわからない。
1950年代のアメリカで、女性同士の愛が誰からも祝福される形で成就するとはむしろ考えにくい。
しかしお互いがお互いを愛していることをしっかりと自覚し、対峙して立っている。それで十分ではないか。
そういう瞬間を映画で現出してくれたトッド・ヘインズにまずは感謝しようではないか。
『キャロル』
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ
製作年:2015年
製作国:イギリス、アメリカ、フランス
上映時間:118分
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