冒頭の長回しが印象的な名作といえば、『黒い罠』『ザ・プレイヤー』『ハロウィン』などが挙げられると思うが、『カミュなんて知らない』の導入はそれらに匹敵する出来栄えである。
手持ちカメラが舞台となる立教大学のキャンパスを流麗に動き回った後、クレーンに据え付けられて学生たちのダンスをぶら~んぶら~んと浮遊しながら映しとる。ここまでがワンシーンワンカット。僕はこの冒頭シーンを何度観直したことか。この長回しだけでどんぶり飯三杯はいけます。
そんな感じで一気に映画の世界に引き込まれた以後、キャンパス内の学生たちの生態が活写されてゆく。
大学のキャンパスというのは外部から切り離された楽園のようなものだ。さまざまなサークルに所属する者たちが思い思いの活動をしている。一種の祝祭。毎日がハレ。その非日常性が素敵だ。
本作の大学構内で響き渡っている楽器の音色や人々の歓声は、自分の大学時代にも鳴り響いていたような気がして、ホントだか嘘だか知らない記憶を呼び覚まし、自分の大学時代はそんなにキャンパス内の居心地がよくなかったはずなのだが、ありもしない郷愁をそそられるのが本作の(僕にとっての)魅力だ。
本作の中心を担うのは、映像制作ワークショップに参加する学生たち。
彼らが制作しているのは『タイクツな殺人者』という、文字通り退屈でツマンナソウな作品だ。でもそれがいいんです。ツマンナイものに一所懸命取り組む。それが学生の特権ってものだ。
彼らの作品に対する熱意の濃度はマチマチで、その統一感のなさが見ていて気持ちいい。演出に関する議論もあまり実があるように見えない。しかも、学生お決まりのホレタハレタという横道にズンズン逸れていく。そのいい加減なスタンスが好きだ。
『カミュなんて知らない』は、大学(文系限定かも知れないが)という非日常空間を現出させてくれたという意味で、僕にとってのオアシスのようなものだ。
なので時々見直して愛でてます。
『カミュなんて知らない』
監督:柳町光男
出演:柏原収史、吉川ひなの、前田愛
製作年:2005年
製作国:日本
上映時間:115分
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