人間に限らず生き物はすべからく、他者の命を奪って生きている。生きるためには何かを殺すしかないわけで、食べるとは本来的に罪深い行為であると言えよう。
『グリーン・インフェルノ』で描かれるのは、未開のジャングルの奥地に暮らすヤハ族の心温まる食事風景だ。彼らはパンツ一丁で全身赤塗りという、試合そっちのけで酔っ払った浦和レッズサポーターのような姿で原始的な営みを送っている。
ただ、たまに人を食う。しかも人間は彼らにとって滅多にないごちそうらしく、子供も大人もハイファイブしながら大はしゃぎ。やったね、パパ。今夜はお外で焼き肉だよ。
と、言うとすぐ「ひどーい、ざんこくー」と指弾してくる意識高い系の人たちがいるが、“残酷”とは詰まるところ、対象との親近性によって決まる相対的な価値観にすぎない。ゆえに生き物は思い入れや、同情を抱かない相手に対してはどこまでも残酷になれる。
世代を超えて食人文化が受け継がれ、「体が赤くない人間=ごちそう」という公式が遺伝子レベルで埋め込まれているヤハ族にしてみれば、人間は畑のダイコンも同然。だもんで躊躇なくザクザク切り刻めちゃう。焼いちゃうし、焙っちゃうし、燻製にもしちゃう。仕上げにヤハ族秘伝の調味料をたっぷりまぶして召し上がれ。
そういう意味でヤハ族は食物連鎖のサイクルにおいて、(普通の)人間よりも上位に立っていると考えられるが、そこはさすが自分の嫁をヒロインとして出演させ、丸裸にひん剥いたあげく、ヤハ族に食わせようとした男イーライ・ロス。食うものと食われるものとが時に立場を入れ替えながら展開していく、皮肉の効いた緻密な脚本に唸らされる。
そう、真の野蛮人はヤハ族ではない。血に飢えた人食いは他にいるのだ。
能天気な人食いエンタテインメントと見せかけておいて、現代社会の矛盾をさりげなく、だが苛烈に皮肉ってみせるあたり、やはり一流の人でなしは一味違う。
『グリーン・インフェルノ』
監督:イーライ・ロス
出演:ロレンツァ・イッツォ、アリエル・レビ、スカイ・フェレイラ
製作国:アメリカ、チリ
製作年:2013年
上映時間:101分
(c) Worldview Entertainment, Dragonfly Entertainment, Sobras International Pictures
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