同じ題材で真っ先に頭に浮かぶのが、フランソワ・トリュフォーの「アメリカの夜」。
撮影現場の混乱と活気を描いた、映画作りは大変だけど、”それでも映画を作り続ける”という力強い映画愛に満ちた作品だ。
「天使が消えた街」はそれとはまったく趣が異なる。
主人公の映画監督トーマスは、イタリアの古都シエナで起きた殺人事件を映画化しようと作業を進めている。
製作側は、犯罪者の異常性や犯罪の経緯などを題材とした大衆の好むドラマ作りを提案。
しかしトーマスは殺された英国人留学生エリザベスに次第に心惹かれてゆく。
トーマスの「暴力や死が溢れる映画を撮るのはもういやだ。愛のある映画を撮るんだ」というセリフが心を打つ。
大衆の興味を煽るのでなく、事件の中でみなに忘れ去られている被害者にきちんと向き合う。誠実な態度だと思う。
しかし脚本は遅々として進まない。
さらに元妻との間で一人娘の親権問題を抱えている。
冒頭で説明なく描かれる天使のような少女がトーマスの娘であることに途中で合点するわけだが、その美しい残像が、公私とも出口なしの状況をさらに痛々しく感じさせる。
美形だがガリッガリの英国人留学生メラニーと仲良くなっていくくだりに、娘の面影を求めている様をどうしても見て取ってしまう。エリザベスに心惹かれるのもそういうことなのか?と、ついつい邪推してしまう。
やがてドラッグに溺れていくトーマスに「映画はどうするんだ?」と突っ込みたくなる。
でも、敢えて困難なアプローチで挑んでいる姿勢に、そしてこの状況で愛しい者の幻影を追い求める心情に大いに共感する。
結局、劇中で映画は作られることはない。が、現実に映画は出来上がってスクリーンで観られているという不思議。こういう感覚が味わえるのは映画ならではだと思う。
石畳の荘重かつ美しいイタリアの古都を舞台に描かれる『天使が消えた街』は、見ていて沈鬱な気持ちになるにも関わらず、何とも形容しがたい忘れがたき余韻を残してくれた。
『天使が消えた街』
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ダニエル・ブリュール、カーラ・デルヴィーニュ
製作国:イギリス、イタリア、スペイン
製作年:2014年
上映時間:101分
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