人間が感じる恐怖は千差万別だ。
ナイフや銃を突き付けられるという物理的な恐怖に始まり、暗闇に対する漠然とした恐怖、仕事や恋人を失いたくないという現実的な恐怖。
『イット・フォローズ』で描かれるのは追われる恐怖だ。と言っても、ヤク中の借金取りや、般若心経を諳んじるモヒカン頭のパンクロッカーに追われるわけではない。それはそれでチビりそうだが、本作で追いかけてくるのは“それ”である。
この“それ”は性交渉によって相手にとり憑き、ターゲットを殺すまで、ひたすら徒歩で追いかけてくる。呪いを解くには別の相手とセックスするしかないが、不幸の手紙と違うのは、“それ”を移した相手が死ぬと再び自分が狙われてしまうこと。ゆえにひと時も安心できない。
しかも、“それ”の正体が判然としない。呪いを受けた本人以外には見えないので亡霊のたぐいかと思いきや、銃弾でダメージを受けるため物理的には存在している。さらに人間の姿に化けているので、一瞥しただけでは“それ”とは見分けられない。
派手な特殊メイクに大金を投じられないのは低予算映画の泣き所。が、本作ではその弱点を逆手にとったクレバーな恐怖演出が冴えわたる。詳しい言及は控えるが、実にやりくり上手な監督さんだ。将来はきっといい主夫になるに違いない。
クリーチャーと戦うために男女の仲良しグループが団結するという展開自体は珍しくもないが、本作ではそこに“セックス”というデリケートな要素が絡んでくるため、彼らの間には常に、奥歯にものが挟まったような、煮え切らない距離感が漂う。この辺りも凡百の学園ホラーとは一線を画している。
素っ頓狂なアイデアをリアリティのあるモダンホラーへと昇華させた、スティーブン・キングが嫉妬しそうな稀有なる成功例。怖くはないが、妙に心にこびりつく一本。
邦題がひと捻り欲しかったけれど。
『イット・フォローズ』
監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:マイカ・モンロー、キア・ギルクリスト
製作年:2014年
製作国:アメリカ
上映時間:100分
(c) Northern Lights Films, Animal Kingdom, Two Flints, Pony Canyon
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