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青春

暗い部屋と一人の女優に見るパーソナルな時空『無伴奏』

暗い部屋と一人の女優に見るパーソナルな時空『無伴奏』


(C)2015 「無伴奏」製作委員会

ただ暗くて見づらい画面と、コントラストを抑えて薄暗さを積極的に表現しようとする違い。
すなわちローキーで徹底的に行こうという意思を感じる『無伴奏』は、「あの時代」の空気感をよく表している作品だ。

といっても僕は1967年生まれなので、1970年代初頭に急速に収束した学生運動の時代の記憶はない。映像と書物から伺い知るばかりだ。
しかし僕は確かに「あの時代」に存在していたことを考えると、いつも奇妙な気分になる。
僕ににとっての「あの時代」とは、記憶はないが匂いとして知っているかのような、何とも形容しがたい時空なのだ。
本作は、そんな僕の時代感覚を絶妙に表現してくれている点で惹かれるという、僕にとってのパーソナルな宇宙のような作品である。

室内がすばらしい。
主人公野間響子(成海璃子)の住む木造家屋の質感に接し、かつて自分もそのような空間で息をしていたような錯覚に襲われる。
一方、タイトル名にもなっている名曲喫茶と竹林を抜けた先にある茶室は、くすんだ空気の中に不穏な未来を孕んだ異空間で、なんかドキドキする。

しかし主要キャスト4名の男女によって繰り広げられる恋愛劇は僕には白々しく思え、成海璃子以外の演ずる役柄、特に恋人・堂本(池松壮亮)に感情移入するのは難しかった。
また、堂本と親友・関(斎藤工)との含みを持たせた関係性の真相は早い段階で察しがつくので、それで物語を引っ張るのは無理があったように思われる。

しかしそれでも『無伴奏』はすばらしい。
成海璃子を追ってさえいればよいからだ。
それほど彼女の佇まいはすばらしい。
鼻声がかった独特の太い声が本作のトーンを決定している。
一見すると一本調子ともとられかれない芝居はしかしキャラクターに一貫性を与え、132分の長丁場を一人で支えている。

『無伴奏』は、暗い部屋と成海璃子の佇まいの演出に全力をかけた(と僕が勝手に定義する)画づくりの一貫性が僕にとってのパーソナルな時空を出現させるに至る、奇跡の産物なのである。

『無伴奏』
監督:矢崎仁司
出演:成海璃子、池松壮亮、斎藤工
製作年:2015年
製作国:日本
上映時間:132分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、今年2018年はいよいよ東京でも上映会を主催します。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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