寡黙さが普遍的美徳であるかはさておき、語られないからこそ、逆に好奇心をかき立てられるという心理自体はさして特異なものではない。
これは映画も同じで、そこでそれ、言うかなーみたいな蛇足なひと言によって感動のシーンが台無しになることは珍しくない。誤解を恐れずに言えば、なんたら製作委員会が絡んでいる大作系邦画に多い。彼らは基本的によくしゃべる。
それはまあ、親切心の裏返しでもあるのだが、なぜこんなことを無機質なパソコンのモニターに向かってひとり力説しているかと言うと、『グッドナイト・マミー』が典型的な語られない映画だからだ。
なぜ、この双子はゴキブリを飼っているのか。
なぜ、この母親は素っ裸で森を彷徨っているのか。
なぜ、長渕某氏は自然に立ち向かいたがるのか。つか富士山と戦うってどういうこと? 桜島と勝負するって何なの? 大丈夫的脳細胞?
とまあ、最後のひとつは風馬牛であるにせよ、本作においてそうした行動の理由が語られることは一切ない。当然、観る者は困惑する。頭にクッチョンマークが生える。
がですね、そもそも人間の行動がすべからく理路整然としたロジックに基づいているかというとそんなことは全然なくて、例えば人はそこに山があるから登る。球があるから投げる。ゴキブリがいるから飼う。それで筋は通るのである。
もっとも、一見寡黙で不親切なように見える本作だが、徹夜明けのフクロウよろしくスクリーンに目を凝らしていれば、あらかじめ用意された回答の断片が散りばめられていることに気づくだろう。
セリフそのものは少ないが、水面下では実に饒舌に、様々な秘密が語られているのである。
これは巧妙であると同時に、恐ろしい。なぜなら、じっと見つめていると文字が浮かんでくるトリック画のように、ふとした瞬間、パズルのピースが組み合わさって、目の前に剥き出しの真実を突きつけられるからだ。
心の準備ができていないまま知らされる真実ほど、慄然とするものはない。
しゃべりすぎて鼻白む映画が多い昨今、本作で得られるこうした悪寒は、貴重である。
『グッドナイト・マミー』
監督:ヴェロニカ・フランツ、 ゼヴリン・フィアラ
出演:スザンネ・ベスト、エリアス・シュワルツ、ルーカス・シュワルツ
製作年:2014年
製作国:オーストリア
上映時間:99分
画像権利元: Ulrich Seidl Film Produktion GmbH、AMGエンタテインメント
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