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「海辺を男の子と女の子が歩いている。ただそれだけで、スクリーンが息づき満たされるような、そんな映画を作りたい ~中略~ ただ人が歩き、話し、誰かとすれ違っていく。そのすれ違った後に残された景色に、何か見る者の記憶に触れるような余韻を残せればと思う」 これは脚本が完成する前に書いていた檄文で、案の定というかその後は自分の言葉を自ら裏切っていく作業を積み重ね、映画はまた別の生き物に成長していきました。しかし出発地の思いはこの映画の芯として残ったのでは、と願っています。
以上は、公式HPに掲載されている深田晃司監督のコメントである。
このコメントに僕が感じたことのすべてが詰まっている気がした。
美しい自然光。ナチュラルなやりとりの会話劇。スケッチブックに示される日付。避暑地でのバカンス…
見事なまでにエリック・ロメール風味である。
ことに、ものすごく緻密に練られていながらパパっと撮ったような“あの感じ”ってロメールにしか出せないと思っていたけど、出せる人が日本に思いっきりいたという事実に僕は狂喜した。
しかし、本作の醸し出す雰囲気はロメールとは似て非なるものである。いや、まったく異なる。
描かれるのは大人たちが繰り広げる生臭い人間模様であって、全然エスプリとか効いてない。
ただし肝心の一番“臭い”部分は描かれていなくて、会話の端々から想像するしかない。そこが一種の情緒を醸し出している。
そんな大人の世界を共感でも嫌悪でもない独特のポジションに立って眺めつつ、避暑地での日々をゆらゆらと過ごす(そして勉強はまったくやっていない)18歳の浪人生朔子(二階堂ふみ)。
やがて彼女は同年代の孝史(太賀)と出会い、恋とも呼べないような淡い関係を築いていく。二人のぎこちない関係がまた何とも言えずよい。
白眉は、メインビジュアルにもなっている木々の緑が映り込んだ川のほとりで朔子があてどもなく遊ぶシーン。そのびっくりするくらい美しい画。
美しい川面の裏側ではいろいろとあるわけで、揺らぐ波紋が不安をかきたてる…でもやっぱり美しい。
朔子が電車で避暑地にやって来て始まり電車で去ってゆくことで終わる“一生のうちの一コマ”を切り取ったかのような『ほとりの朔子』の時間が、映画として永遠に定着されたことが何よりも嬉しいのである。
11月29日。「深田晃司映画まつり」にて鑑賞。
『ほとりの朔子』
監督:深田晃司
出演:二階堂ふみ、鶴田真由、太賀、古舘寛治
製作年:2013年
製作国:日本、アメリカ
上映時間:125分
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