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ラブストーリー

わかりあえぬ男と女、それでも奇跡的に美しい女の佇まい。『それから』

わかりあえぬ男と女、それでも奇跡的に美しい女の佇まい。『それから』

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著名な評論家であり小さな出版社で社長を務める男が、妻から浮気を問い詰められるというオープニング。社長は1人しかいない女性社員と確かに不倫関係にあった。が、その関係は終わったはずだった。逃げるように自身が経営する出版社へ出勤すると、新入社員のアルム(キム・ミニ)が初出社。その日の昼に一緒に食事を取っている時、アルムは社長に「生きる理由は?」と哲学的な問いを投げかける。が、場面一転、浮気の真相を確かめに会社に乗り込んできた社長の妻が、浮気相手と勘違いしたアルムに対し、有無を言わせずビンタを喰らわせる。
事はそれだけにとどまらず、やがて社長の浮気相手の女性社員が姿を現わして不倫関係が再燃。浮気相手はアルムであるという偽装工作を施し、彼女を会社から追い出して自分が社員として復帰することを画策する。

端的に言って修羅場の連続である。が、そんな理不尽な状況に置かれても毅然とした態度を貫き、惑わず一歩引いて真理を見極めようとするアルムの姿勢が美しい。場当たり的な嘘を重ね、いざ進退極まるとおろおろと泣きだす社長との対比が鮮やかだ。そのご褒美かどうかわからないけど、走るタクシーの窓を開けて雪を眺めるシーンでの彼女の表情は、息をのむほど美しい。

もちろん、アルムとて下世話な連中に対する怒りや呆れもあるだろう。が、彼女の立ち位置は、男を徹底的に追い詰め、貪欲に所有しようとする妻や愛人らと一線を画している。理不尽なことにも目をつむり、そればかりか、社長のことを何年か経っても忘れない思い出として許容する存在だ。こう書くと、アルムってちょっと理想化されすぎていやしないか?ととられてしまうかもしれないが、自然体でありながら女の芯の強さをも表現するキム・ミニの佇まいに、わたしは理屈を超えてただただ魅了された。

対話形式の定点長回し、ズーム、転換の(妙な)音楽など、独特のホン・サンス節は健在。不自然な時制には戸惑いを覚えなくもなかったが、それがモノクロ映像とあいまって独特の世界観を構築しており、どこにでもある陳腐な物語が時間を排した形で描かれることで、「ままならぬ人生」「男と女の決定的なわかりあえなさ」みたいなものが如実に浮かび上がっているように感じた。

『それから』
監督:ホン・サンス
出演:クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、キム・セビョク
製作年:2017年
製作国:韓国
上映時間:91分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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