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ヒューマン

おめでとう!『万引き家族』

おめでとう!『万引き家族』

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
 かつてドラマ「北の国から 2002遺言」(脚本:倉本聰)で黒板五郎(演:田中邦衛)が廃材や不要とされたゴミとされた物を集めて「拾ってきた家」を作りましたが、この家族はまさに「拾ってきた家族」。利用価値がないと見離された資材の様に、ないがしろにされ社会の見えない隅っこへ追いやられた人達です。共に過ごす中では楽しい時間も思い出もありますが、細い綱で綱渡りをするような危うさを抱えています。貧しいからこそ肩を寄せ合って生きていると言っても、清貧のかけらもありません。客観的にみれば反社会的犯罪者集団であり、あってはならない不適切な関係で、一般的な家族とも違います。身勝手な理屈、非常識な行動もあります。
 とは言うものの、生活の中で生まれる、折々の感情まで否定はできません。かけがえのない時間もあり、それは嘘でもニセモノでもありません。犯罪でつながっている家族でも、思ったり感じたりしたことは事実でしょうし、むしろ本当の家族より強く、わかりやすい形になるかもしれません。家族の状況が変わっていく中、この関係にも限界が見えてきて、やがて解体へと向かいます。そして否応なく世間から介入を受け、厳しい視線を思い知ることになります。本人たちも、自分たちの置かれている立場は重々承知で、釈明があったとしても、口にせず、観念したかのように、自らに言い聞かせるかのように社会の「常識」に従い判断、行動します。それは子供たちも例外ではありません。ただ、郷愁を抱いたり、思うことは止められないので、各々の言葉以外の表現、仕草や振る舞いに気持ちが思わぬ形で表出しています。それは本人たちの本音、もしくは自覚すらない心の声だといえます。何気なく過ごしている時間が、時に自分で思う以上に意味を持つことはあります。かけがえのない時間を経験したことは、これから彼らを待ち受けるであろう厳しい生活を乗り切る、もしくは、あきらめたり、絶望しないようにする何らかの力になるかもしれません。
 
 まるで実録モノのように書いてしまいましたが、それだけ真実味を感じさせる雰囲気を持っています。同時にフィクションだからこそ成り立つ作品ともいえます。キャスト陣は大人も子供もブラボー!な演技で、さすが、今回のカンヌ映画祭の審査員の一人ドゥニ・ビルヌーブ監督の「魂をわし掴み」にしただけのことはあります。是枝監督の作品は、実際にありそうな家や環境設定、日本家屋とか公団住宅っぽいところを舞台に、ちょっとありえない人間関係が展開する童話のようであり、どれもささやかな感情を拾い上げています。今回はこれまで以上にさらに繊細さを感じます。大人も子供も言葉だけでなく、台詞以上に非言語的表現が、表情や仕草や行動で気持ちを語っている場面が多くがありました。

 この作品が今年の第71回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞したことは、もう言わずと知れたことです。映画は演劇やコンサートのようにライブではありませんが、今回のように受賞報道が絡むとある種のライブ感が出るようです。カンヌで高評価を得た作品は日本で掛かる可能性は高いですが、だいたい1年後とかになり、ニュース等の情報の記憶は見るまでに一旦リセットされます。それが今回は取り立てホヤホヤ、まさに邦画だからこそで、マスコミを賑したニュースの記憶が途切れないまま、フランスのカンヌで審査員達から支持を受けた作品を見られる、それだけで贅沢な感じです。パルムドールということに浮かれず冷静なコメントやレビューも見受けられますが、受賞報道と同じ記憶の線上で見られる要素が加わるのは効果大で、思う以上に楽しめました。とにかく、「おめでとう!」です。

『万引き家族』
監督:是枝裕和
出演:樹木希林、リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ
製作年:2018年
製作国:日本
配給:ギャガ
公開日:6月18日
上映時間:120分

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1966年生名古屋出身、東京在住。会社員。映画好きが高じてNCWディストリビューター(配給・宣伝)コース、上映者養成講座、シネマ・キャンプ、UPLINK「未来の映画館をつくるワークショップ」等受講。青山学院ワークショップデザイナー育成プログラム修了。転勤で暮らした札幌に映画館を作りたいという野望あり。
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