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ラブストーリー

避けても嵌る魔境『お嬢さん』

避けても嵌る魔境『お嬢さん』

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正直、安っぽいポルノまがいの悪趣味映画だろうという先入観があった。
加えてパク・チャヌク監督作品である。快/不快で言ったらまちがいなく不快ゾーンに属する映画体験を今までに蒙っている。一方、他の映画では味わえない、パク・チャヌク作品でしか味わえない空気感に度肝を抜かれ続けてきたこともまた確かだ。
そんなわけで足どりは決して軽くはなかったが、何かに惹きつけられるがごとく劇場に足を運んでしまった。

しかし、映画が始まるや否や、来なけりゃよかったと後悔の念にかられた。
韓国人が話すたどたどしい、あまりにも下手くそな日本語に引いてしまったのである。
主たる登場人物は4人。役者はみな韓国人だが、4人のうち1人は日本人、2人は日本人になりすましている詐欺師という設定である。なのに藤原伯爵という偽の名と身分を名乗る男詐欺師(ハ・ジョンウ)は「ありがとうご“じゃ”います」などと言ってる始末。その時点で日本人じゃないってバレとるわ!

しかしお風呂のシーンで一気に風向きが変わった。
お嬢さん(キム・ミニ)の莫大な財産を奪うべく召使として送り込まれた女詐欺師(キム・テリ)は、逆にお嬢さんの魅力にすっかりマイってしまうのだが、それを決定づけるのが件のシーンなのだ。
お嬢さんの頬の内側を指にはめたヤスリですりすりする描写の執拗さ。それによって立ち上がる心の動きが視覚化されるかのような緊迫感。
女詐欺師がお嬢さんに惚れるかどうかがミステリーとしてはもちろん、本作の核(僕はそれを「自由」と捉えている)となる部分を背負っていると言っても過言ではなく、よってこのお風呂のシーンはまちがいなく本作における最大の山場だ。

さて、問題の下手くそ日本語の件だが、こちらも途中から風向きが変わってくる。
性器を意味する日本語を清楚なお嬢さんや子供に何度も何度も言わせるのを聞いているうちに(一歩間違えばオヤジか中坊のガキが喜びそうな塩梅だがそういうふうにはならず)、グロテスクな笑いと同時に背筋をつつーっと伝わってくる得体の知れない不気味なものが呼び覚まされるのである。
ひょっとして、パク・チャヌクは拙い日本語を喋らせて失笑を買ったり下品に堕ちたりするリスクを承知の上で、一種独特・唯一無二の空気感を醸すギリギリの線を狙うために「日本語でいく」ことを敢えて選択したのか?

うがった見方だろうか?
でも、こんだけ映画を観てきてなお「初めて味わう感覚」に立ち会わせてもらえるパク・チャヌクワールドは、疲れるけど避けては通れない、僕にとっての魔境のようなものだと改めて認識した次第である。

『お嬢さん』
監督:パク・チャヌク
出演:キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ
製作年:2016年
製作国:韓国
上映時間:145分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!
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