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ヒューマン

日常は続いていく、ほんの少し上向きで『アスファルト』

日常は続いていく、ほんの少し上向きで『アスファルト』

(C)2015 La Camera Deluxe – Maje Productions – Single Man Productions – Jack Stern Productions -Emotions Films UK – Movie Pictures – Film Factory

フランス郊外の団地を舞台とした6人の男女の群像劇。その団地に住まうのは、どこか寂しさを抱えた人々。そんな彼らに訪れるふとした出来事が彼らの日常に小さな変化を起こしていく。

映画が終わったとき、私は非常に寂しい気持ちになってしまった。登場人物たちの孤独な日常の風景にあてられたのかもしれない。普段の私は、忙しく仕事をしたり、友達と遊んだりして心に浮かぶ”寂しさ”を意識の隅に追いやっている。だけど、無機質なコンクリートの部屋で生活する登場人物たちの姿は、その”寂しさ”をじくじくと刺激してくる。

息子がいなくなった部屋で一人生活するおばあちゃんの姿に、数十年先の自分や実家の母の姿を重ねてしまう。夜中にうわ言で「彼の隣で眠りたい」とか言ってしまう落ち目女優の寂しさ、なんだか他人事に思えない。こんな映画を観たあとは誰かのいる家に帰りたい。誰かと話したいそんな気持ちにさせられた。

寂しい、孤独と連呼してしまったけれど、この映画は悲しいタイプの映画ではない。どちらかというとハッピーエンド。孤独な人々の日常を描きつつも、前向きなラストに着地する。どうしようもない人生も、誰かとの出会いによって少しずつ明るいほうへと導かれていく。そう、あくまでも少しずつ。

この少しずつというところがなんとなくリアルだなと感じる。幸せはある日突然魔法のように訪れるのではなく、日常の積み重ねの中に少しずつ現れるものなのかもしれない。たとえ宇宙飛行士が空から降ってきても、日常が劇的に変わるわけではない。むしろ何度修理しても直らない水道管やエレベーターのように、何度も同じところを堂々巡りしながら日常は続いていく。それでも、誰かの言葉が人生をほんの少し上向きに変えてくれる。そんな出会いの奇跡に静かな感動が湧き上がる。

『アスファルト』
監督:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール、ギュスタブ・ケルバン、バレリア・ブルーニ・テデスキ
製作年:2015年
製作国:フランス
上映時間:100分

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Kana
Kana
「趣味は映画です。」と答えている30代女です。 映画を観て感じたことを綴ってみます。
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