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ヒューマン

自殺したい老人の最期と、自殺したい少女のこれから。『ハッピーエンド』

自殺したい老人の最期と、自殺したい少女のこれから。『ハッピーエンド』

(c)2017 LES FILMS DU LOSANGE-X FILME CREATIVE POOL Entertainment GmbH-WEGA FILM-ARTE FRANCE CINEMA-FRANCE 3 CINEMA-WESTDEUTSCHER RUNDFUNK-BAYERISCHER RUNDFUNK-ARTE-ORF

動画を撮影するスマホの画面で映画は始まる。

就寝前の母親を隠し撮りしているほの暗く不明瞭な画面に、母親の行動を観察している様子をSNSに投稿(友達とのチャット?)している文字が浮かび上がる。
ドアタマからいや~な空気が漂う絶妙な導入だ。
スマホの持ち主である13歳の少女エヴは、次にハムスターを撮影している。ハムスターに母親の抗鬱剤を食べさせ、動かなくなったところで「一丁あがり」という文字が画面に書き込まれる。

(こういう演出は本当に糞だと思う。が、映画を観ているわたしも作り手と同罪なので、ミヒャエル・ハネケに「確かに私は糞かもしれないが、観ているお前も糞だ」と言われているような気がして、なんて嫌な奴なんだと勝手にハネケを憎悪するわたし)

実験を済ませ、母親を昏睡状態に追い込んだエヴは、母親と離婚した父親の家族に身を寄せる。
エヴの父親は、若い女と再婚し子供までもうけたのに、愛人と頻繁にエロチャットを繰り広げている。
父親の姉は家業である建設会社を精力的に切り盛りしているが、仕事のことしか頭にない様子。
姉の息子はアルコール依存で、奇行も目立ち、会社の専務という重責を全うできない。
家長のジョルジュは自殺願望を抱いていて、実際に自殺未遂を起こしてしまう。
それぞれが問題を抱えていて、家族生活はすでに破綻状態だ。が、大邸宅に家族一同が会し、召使に給仕してもらいながら食卓を囲んでいるシーンが象徴する、リッチな外見で表向きを取り繕っている様が滑稽味を誘う。

エヴにとっての現実はネットであり、スマホの動画を通して眺める世界だ。
ジョルジュと同様自殺未遂をはかったエヴに対し、ジョルジュは「大鳥に小鳥が食われる現場を実際に見てショックだった。ネットやTVで見ると何てことないのに」という言葉を贈り、エヴに自殺幇助のような役割を担わせ、入水自殺をはかる様を見せつける。わたしは「死を通した生の問い直し」の実践と解釈したが、その姿を迷わずスマホで撮影してしまうエヴにはぎょっとしてしまった。

ここで映画は終わる。
『ハッピーエンド』というタイトルのイメージと見事に齟齬をきたす気持ち悪い余韻が残る中、ジョルジュの生き様(「死に様」と言いたいところだが、生死は判然とせぬまま映画は終わる)をしかと目撃したエヴ、そして観客のあなたはこれからどんな生き様を選んで生きていくのでしょう?という問いがぐるぐると頭の中をまわり続けている。

『ハッピーエンド』
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=ルイ・トランティニャン、ファンティーヌ・アルデュアン
製作年:2017年
製作国:フランス、ドイツ、オーストリア
上映時間:107分
オフィシャルサイト

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、今年2018年はいよいよ東京でも上映会を主催します。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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