(C)2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
末井昭が発行したエロ雑誌は、そのエロからはみ出たありようが当時のサブカルの隆盛を物語る器としてよく引き合いに出される。そういう記事をちょいちょい目にしていたわたしは、末井昭という伝説的エロ雑誌編集長がいることを知ってはいた。が、鮮明に記憶しているのは、パチンコ雑誌の編集長として自ら女装してCMに出演していた姿である。
末井昭の同名の自伝的エッセイを下敷きに、彼をモデルとした「昭」の一代半生記を綴ったのが本作。
「芸術は爆発だ。と言った人がいましたが、僕の場合はお母さんが爆発でした」というナレーションで語られるとおり、昭の少年時代、母親は隣家の息子とダイナマイトで心中してしまう。
やがて昭は故郷を出て工場に就職。デザインを学び、「情念の表現」にいきり立ち、ひたすらトンがって生きようとする。全身に赤ペンキを浴びてストリーキングに及ぶシーンなどはまさにそれを象徴した行動だ。
そうこうするうちに、昭はエロ雑誌の世界に足を踏み入れる。猥雑なパワーに充ち溢れたエロ雑誌の現場は観ていて楽しい。彼が編集長として創刊した「写真時代」は30万部の売上を誇るに至る。
そういった背景の活況と反比例するかのように、昭のいでたちは変化してゆく。以前のトンがった様は陰をひそめ、別人のように温和な物腰で振舞うようになる。しかし、時折見せるデモーニッシュな目つきが恐ろしい(一方、ゾクっとくるほど魅惑的でもある)。怪しい投資に無頓着に大金をつぎ込んだり、小銭をばら撒いて徘徊したりといった、狂気を孕んだ危うい立ち姿をも見せ始める。
母の幻影が劇中にたびたび登場する。
男を愛する女の妖艶さ、子を慈しむ母性、肺結核を宣告されて生きる道を閉ざされた絶望という、複雑な側面を内包した人物像がセリフなしで見事に描かれる。その様は文句なく美しい。
その美しい母の姿を何度も目撃するうちに、本作は、昭の母への深い愛情が徐々に意識化されてゆく過程を描いた映画のようにも思えてくる。
やがて、昭が扱いに困っていた母親のダイナマイト心中も笑い話のように語ることができるようになり、様々な葛藤の果てに彼なりの一つの納得に至ったようにも見えた。
「写真時代」は廃刊に追い込まれる。活路を見出したのはパチンコ雑誌。
その宣伝のために、昭が白塗り女装着物姿でCMに出演し「た~まキュン!」というセリフを発して本作は幕を下ろす。その鮮やかな幕引きによって再び現れた現実は、以前の現実とは違う世界のような錯覚を覚えた。なぜか心が軽くなった気がしたのは、わたしがマザコンだからなのかもしれない。
『素敵なダイナマイトスキャンダル』
監督:冨永昌敬
出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、尾野真千子
製作年:2018年
製作国:日本
上映時間:138分
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