マーク・ウェブの出世作『(500)日のサマー』は、本作鑑賞後に観た。どちらも大好きな作品で、特に主人公の、朧気ながらやりたいことは見えているのにそこに一直線に進まない感じの描き方が好きだ。そういう、あっちにフラフラこっちにフラフラな人間に付き合う楽しさが、わたしにとってのマーク・ウェブ作品の醍醐味だ。
マンハッタンのダウンタンの安アパートに住み、「書くこと」に踏み出し切れず、ガールフレンドとの仲も進展せずに悶々とした時を過ごすトーマス・ウェブ。そんなトーマスに、アパートの隣に偶然引っ越してきた初老の男が、「おやおや、お悩みのようですな」と声をかける。人生の奥義を達観したかのような言葉を繰り出す、気さくだけど謎めいたその男は、トーマスのメンターのような役割を果たすことになる。
一方、出版社の経営を手掛け、マンハッタンのアッパーウエストサイドに居を構え、円満な夫婦生活を送っているトーマスの父。彼の浮気現場を偶然目にしたことで、物語はトーマスの現況さながらにあられもなくあっちこっちに転がっていく。
映画は迷えるトーマスに寄り添って進んでいくので、基本わたしもトーマスの気持ちわかる~って感じで楽しんでいたわけだけど、よくよく考えたらわたしは前述の初老の男や父親の方に年齢が近い。しかしそんな「いい大人」たちが、こと女性のことに関してはまったく正解を導けていない。俯瞰して見てみるに、歳に関係なくいくつになっても恋愛問題に結論は出ないというか、むしろ間違った方を選んでしまいがちであることに気付く。だからこそ恋愛映画は廃れないし、恋愛がいまだ人類が抱えている最大の問題のひとつなのであろう。わたし個人はこの問題からは逃げようと決めているが、マーク・ウェブ監督にはぜひこの問題に切り込み続けて行って欲しい。そしてこれからもわたしを楽しませ、癒して欲しい。
本作の舞台はニューヨークのマンハッタン。もちろん行ったことなどないけれど、観光地のキラキラした感じでもなく、生活臭漂う感じでもない、ほどよく心地いい風景や建築物が配置された地所を慎重に検討してロケ地に選んだのだと想像するが、そんな土地のあちこちを主人公とともに歩き回る「お散歩映画」としても本作は楽しめる。
お散歩は人生そのものに見立てることもできる。人生の道筋がなかなか定まらぬトーマス。生活や仕事の道筋は定まっているけど恋愛面においては絶賛迷走中の大人たち。彼らがフラフラと徘徊する人生に付き合う時間を、存分に楽しませていただいた。
『さよなら、僕のマンハッタン』
監督:マーク・ウェブ
出演:カラム・ターナー、ケイト・ベッキンセイル、ピアース・ブロスナン、ジェフ・ブリッジス
製作年:2017年
製作国:アメリカ
上映時間:88分
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