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ヒューマン

あゝ、無常。『ナイルの娘』

あゝ、無常。『ナイルの娘』

主人公の少女はケンタッキーフライドチキンでバイトをしている。店内では中森明菜の「DESIRE」が流れ、少年たちは肩パッドがっつりのダブルのスーツを身にまとい、通信手段はゴツイ携帯電話やポケベル。80’sの雰囲気満載で、同じ頃の日本のバブルな空気が、本作の舞台である台湾にも色濃く充満している。

そんな80’sな空気感と、少女が通う夜間学校がコントラストをなす。教師は生徒たちからけっこう好かれており、生徒たちが真面目に授業に取り組んでいる様が意外だ。
教師はタレコミのせいで思想的な疑いをかけられ、解雇される。本作の製作は1987年。台湾ではこのちょっと前まで戒厳令が敷かれていたことを思い起こさせる。教師は、最後の授業で「赤でも黒でも黄色でもない、これからは緑の時代がやってくる」と語る。80年代の多様な変化が訪れると宣言しているのだろうか?

80’sといえば角川映画だが、少女は角川映画のヒロインよろしく自ら事件の渦中に飛び込んで大活躍…なんてことにはならない。人生の裏街道を行く兄の身に厄介事がふりかかろうが、少女が密かに想いを寄せる兄の仲間がヤクザと揉めてドンパチしようが、少女自身の身には何も起きない。家族たち、友人たちのドラマが主に展開されるのだ。そのせいなのか、少女の周囲から一人また一人と人が消えてゆくやるせなさと静けさに、無常を感じる。フィルムに無常が定着しているかのようなこの映画の中に流れる時間は独特で、夢みたいな映画を観ているような、はたまた映画みたいな夢を観ているような、そんな気分に陥る。

同じ構図で何度も何度も映し出される、扉へ抜ける家の中。その空間で営まれる日常のあれこれ。別居しているお爺ちゃんが家族に絶妙に邪険にされながらも入り浸っていたり、妹が1つしかない台所の机で宿題をしていたり。お爺ちゃんや小学生の妹が家にいて何かを言う、ただそのことが大事にされているような気がするが、やっぱり夢のようだ。

K’s cinemaにて開催の「台湾巨匠傑作選2018」にて鑑賞。

『ナイルの娘』
監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
出演:ヤン・リン、カオ・ジエ、リー・ティエンルー
製作年:1987年
製作国:台湾
上映時間:90分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!
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