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ヒューマン

惑う人、生ける都市。『台北ストーリー』

惑う人、生ける都市。『台北ストーリー』

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主人公アリョン(演ずるはなんと、ホウ・シャオシェン!)は過去に捉われている。少年野球のエースだった栄光を引き摺っている。
ことあるごとに少年野球チームの練習や試合を見に足を運んだり、米国滞在中に録りためた大リーグの試合を繰り返し鑑賞したり。

義侠心の強いアリョンは、不遇をかこっている昔のチームメイトの面倒を見る。
幼なじみの恋人アジン(ツァイ・チン)の父親の事業の失敗のケツも拭う。それが当然と言わんばかりに。

アジンはアリョンと結婚したい。そしてアメリカに行きたい。過去に両親から受けた仕打ちの影響などもあって地元愛は皆無。一刻も早く台北から離れたいのだ。
しかしアジンの父親の借金の肩代わりをしたアリョンは生まれ育った故郷に自らを縛りつけたも同然であり、当然アジンをアメリカに連れて行くことなんてできない。
「結婚もアメリカも全てを解決する万能薬ではない」なんてわかったようなこと言ってはみるが、その言葉は虚しく宙を舞うばかりだ。

アリョンを縛りつけ、アジョンを解放してくれない彼らの生まれ故郷、台北。

しかしエドワード・ヤンが撮りあげる台北はこのうえなく魅力的だ。
いかにも80年代的なけばけばしい富士フィルムやNECのネオンがあんなに美しく見えるなんて。
終盤にかけて夜のシーンばかりになっていくが、闇夜の艶めかしさを前にして息を飲んだ。あんなふうに闇を撮れるってのは一体どういうことなのだろうか?

都市は生き物だ。
エドワード・ヤンはそれを見つめることができる類まれな視力を持っている。
経済的に活況を呈し、急激に変わりゆく台北という都市に息づく人々はその変化に着いていけず、ある者は過去に囚われ、ある者はここではないどこかに希望を見出し、ある者はただ茫然と立ち尽くすのみ。
でも都市は刻々とその姿を変えてその巨大な身体を這いずらせている。

そんな都市をフィルムに定着してしまった『台北ストーリー』。
正直、映画の得体の知れなさを垣間見てちょっと怖くなった。が、映画でしか描けない世界が確かにここにあることを目撃する興奮はそれを上回って余りある。
必見。

『台北ストーリー』
監督:エドワード・ヤン
出演:ホウ・シャオシェン、ツァイ・チン
製作年:1985年
製作国:台湾
上映時間:119分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、2018年からは東京でも上映会を始めました。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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