公開から15年経った作品だが、あるキッカケで観直すことになり、鑑賞後のやり切れない気持ちに収まりがつけられずに困惑した。15年前はどう対処したのだろう?まったく憶えていない。
主人公サチ子は、小学6年生で担任の教師との恋愛を経験する。
やがて教師は秋田の原発で働くことになり、父は自殺し母は自殺未遂…
「悪い虫」がぶんぶん寄ってくる。
サチ子のまわりには下心を悟られぬようそれとなく、もしくは恥知らずにも下心を隠そうともせず、劣情をもよおした男どもが吸い寄せられるように集まってくる。母親の新しい恋人には強姦されそうにすらなる。
サチ子は寡黙だ。同級生の中学1年生たちとは明らかに次元の異なる大人びたオーラを放っている。
決して他人を寄せつけぬ鎧を纏っていて、しかしその棒切れのようにか細い身体に纏った鎧はほとんど防御の機能を発揮していないようにも見える。甲虫が固い鎧で身を守ってはいても人間にはいとも簡単に踏みつぶされてしまうかのように。
サチ子は世界を拒絶している。
そうするしかないのだ。
が、自分が不幸でもこうべを垂れない。「コイツどうでもいい」と思ったら絶対に頭を下げる気がない態度。
痛々しいと同時に誇り高く、美しい。
終盤、悪事で解放されていくかに見えるサチ子。それまでに見せなかった子供のような笑顔が弾けて印象的だ。
彼女はこの時点で壊れちゃってたのかもしれない。
しかし、悪事は悪事である。万引きであれ、火を付けることであれ。
だからサチ子は自分が悪いことをやったと自覚して、それを自分で引き受けようとする。そして最後、奈落に落ちていく道を自ら選ぶ…と僕は解釈したい。そう解釈したとしても過酷すぎる生き様だが。
『害虫』は、サチ子と同じくぶっきらぼうな風貌を湛えている。
サチ子がどう生きているかを描いている映画だからだ。
そして、サチ子が決着をつけた時が映画の終わり。
とてつもなく不幸な世界に落ち込んでいく道かもしれないけれど、サチ子は最後にひとつ、自ら道を選んだ。
それがサチ子の世の中に対する最後の抵抗でもあるし強さでもあるのだ。
『害虫』
監督:塩田明彦
出演:宮崎あおい、蒼井優、田辺誠一、りょう
製作年:2002年
製作国:日本
上映時間:92分
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