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仙台に未来の映画館を創る『館長日記』と『シネマレビュー』

ヒューマン

壊れない壁『マイ・ビューティフル・ガーデン』

(C)This Beautiful Fantastic UK Ltd 2016

本作の主人公ベラは、自分固有の秩序を守って暮らしている。

自ら作り上げた秩序に暮らす人というと、『シンプル・シモン』の主人公シモンが思い出される。
彼がアスペルガー症候群というのがあるにせよその秩序は多分に原理主義的であり、まるで要塞のように強固な秩序の壁を築きあげていた。
彼がそんな壁を壊すことに伴う大きな痛みと、同時に生まれるカタルシスによって紡ぎ出される強度のドラマが感動を生む作品であった。

しかし本作の場合はそんなふうに筋は運ばない。
確かにベラは、自分の生活スタイルを頑なに守っている。
が、恐らく無意識的にであろうが、突発的に適宜ルールを変えてしまうのである。

ベラは自分で食べる食事は必ず自分で作る。それは見事なまでのシンメトリーに盛り付けられ、必ず同じ時刻に食べ始める。クローゼットの衣服全ての色合いとデザインは統一され、家具の上のちょっとした埃も気になる様子だ。
そんな女性にとって、自宅に他人が侵入することは決して歓迎すべき事態ではない筈だ。ましてやそれが男性だったら何をかいわんやだ。
が、お互いキレイなイギリス英語で会話していた相手の男性が突如発したゲール語(アイルランドの土着言語)から同郷の人間だと知るや否や、そしてその男性が息苦しい環境にいるのを見てとるや、瞬時の判断で家に料理人として招き寄せ、彼の作る料理を食べるようになるのである。
やがて彼女が恋を育むのはその男性ではなく、全然別の発明家の卵だったりするのであるが…

ベラが築き上げた壁は原理原則に支えられているのではなく、スポンジのように弾力性に富み、例えば彼女の優しさや正義感によって途端に形を変えてしまうような、そういう材質のものだ。

本作は、植物恐怖症のベラがお隣に住む偏屈な老人と徐々に心を通わせながら庭を作り上げていく、一種の成長譚の体裁をとってはいる。ノーブルで清潔なベラの佇まいは美しく、彼女の暮らしぶりも僕には好ましく思え、別に成長などせずともそのままでいいじゃないかと思ったりもしたが、物語の過程で彼女が築いた壁が無理に壊されるわけではないし、壊そうにも弾力があって不定形だから壊れない。
つまり、『マイ・ビューティフル・ガーデン』の世界観は、「そのままでいい」という全肯定的な優しさに満ちているのである。

『マイ・ビューティフル・ガーデン』
監督:サイモン・アバウド
出演:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、トム・ウィルキンソン、アンドリュー・スコット
製作年:2016年
製作国:イギリス
上映時間:92分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!

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