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鏡の前に立ち、歯を磨くラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)の乳首が垂れ下がった骨と皮だけのボディのクローズアップという、ある意味衝撃的なオープニングで本作は始まる。これからいったい何を観させられるのだろうとドキドキするが、ラッキーはその場でくるくる回る体操(本人が言うところによるとヨガだそうだ)に移行。以後コーヒーを煎れ、牛乳を飲み、ネルシャツを着込んで外出し、行きつけのダイナーのカウンター席に陣取ってクロスワード・パズルを始める。夜になるとバーに出かけてブラッディ・メアリーをちびちびと飲む。タバコは片時も手放さない。
こうやってわれわれ観客は、一人の老人の終末の日々のルーティンに淡々と付き合うこととなる。
「現実主義は物(thing)」
「孤独(lonely)と1人暮らし(alone)は違う」
「人はみな生まれる時も死ぬ時も1人。独り(alone)の語源は、みんな1人(all one)」
などなど、独特のラッキー語録を交えての友人たちとの諧謔にみちたやりとりが楽しい。
友人たちからいくらたしなめられても1日1箱のタバコをやめる気はないラッキー。部屋で卒倒し病院に担ぎこまれてもタバコは手放さない。が、死の予感の自覚をキッカケに、死生観の探求の旅が始まる。
友人ハワード(デヴィッド・リンチ)のリクガメが逃げ出した話、ダイナーで出会った元海兵隊員が沖縄の過酷な戦場で見た少女の笑顔の話などを通して、ラッキーはどんどん死生観を深めていく。
やがて彼がたどり着いたのは無(ウンガッツ)。空(くう)。
無ならどうするのか?という問いに対する答えは、「微笑むのさ」。
ラストシーン。
荒涼とした砂漠で巨大なサボテンを見つめていたラッキーがタバコに火をつけ、不意にカメラを見つめ、微笑む。
ラッキーがたどり着いた境地の体現ともとれるし、役者ハリー・ディーン・スタントンが、スクリーンの前にいるわたしたちへ「さようなら」のサインを寄こしたようにも見えた(スタントンは、本作の撮影終了後の2017年9月15日に他界した)。
はたまた、映画を通してラッキーとスタントンがひとつになった様を見たようにも思えたのである。
『ラッキー』
監督:ジョン・キャロル・リンチ
出演:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リヴィングストン
製作年:2017年
製作国:アメリカ
上映時間:88分
オフィシャルサイト
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