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サスペンス

脱獄映画の傑作『穴』

脱獄映画の傑作『穴』

「脱獄映画は名作ばかりだ」―私が尊敬してやまないK先輩のお言葉である。確かに、『抵抗』、『大脱走』、『暴力脱獄』…、どれも素晴らしい。ただ、そんな中、脱獄という行為自体の緊張感、その過程の困難さ、そして人間のしたたかなすがたを克明に記した映画は、今作をおいて他にないのではなかろうか?

ジャック・ベッケル監督の遺作。『穴』。フィルム・ノワールの傑作。

印象に残っているのは、ひときわ大きく鳴り響く、強烈な破壊音。物語は全編ほぼ刑務所の中で展開され、その静けさの中、囚人たちの脱獄の試みが大音とともに刻々と写しだされていく。5人の囚人たちは手で、鉄の棒で、ありあわせの道具を使って、外界へ向けた穴をひたすら掘り続けていくのであった…。

何度も何度も打ちつける、ものとものとがぶつかり合う高音が、彼らの焦燥と自由への希有を浮かび上がらせる。そして、いつだって冷ややかに、落ち着きはらって彼らを捉える映像が、その緊張と不安をあますことなく映しだしていく。

激しい音と、静かな画面。その単純な音と映像の繰り返しが、次第にじわじわと、見ているものの心さえをも極度の緊張で締めあげようとしてくるのである。

そして、フィルム・ノワールを語る上でかかせない―抗えぬ運命の悲しさと、男たちの友情と裏切り。エンディング―穴を掘り終えた男たち。そこにはもう、壁を打ち砕く激しい音など存在しない。だがしかし、一人の男が吐きだす、静かな一言。その一言が、どんな激しい破壊音よりも強く、聞くものの耳を打ちつけるのであった。

『穴』

監督:ジャック・ベッケル
出演者:ジャン=ケロディ
製作:1960年
製作国:フランス
上映時間:124分

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大久保 渉
大久保 渉
映画系文筆/映画館勤め/映画祭好き。執筆・編集『映画芸術』『ことばの映画館』『FILMAGA』他/ KAWASAKIしんゆり映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン他、各種映画祭にて活動中/現在は神奈川県内の映画館にて勤務中。
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