画像出典元:http://unifrance.jp/festival/2015/films/film08
『ヴィオレット』の主人公は、己のことを「醜い女」といって忌み嫌う。誰からも愛されない。必要とされない。それは自分が醜いから。激しい孤独の中、ひとり苦悩を続けていくすがたが印象的だった。
されど、私は彼女が一人ぼっちのようには決して見えなかった。少なくとも、映画は彼女のことを愛している。そう思えてしまうほどに、彼女の切実な内面を捉えた、彼女に寄り添った映像の数々だったのである。
実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュック(1907 ~ 1972)の生涯を追った今作。私生児。虐げられた幼年期。貧困の中での中絶。離婚。絶え間なく続く孤独。自らの体験を本に書くことで、周りから認められたい、愛されたいと願う彼女。されど、その願いは中々叶わず。映画はただひたすらに、彼女の激しいジレンマ、悲しみに肉薄していくのであった…。
エマニュエル・ドゥヴォスの名演もさることながら、私は主人公の所作の一つひとつに胸が締めつけられてしまった。想い人にすがりつくヴィオレット。短気を起こすヴィオレット。いつも上目づかいなヴィオレット。誰かに振り向いてもらいたい。媚も我ままも見栄も嘘も、時に気難しいとさえいわれる彼女の性格は、すべて満たされない愛を埋めるためだけに生まれ出たものだった。そんな彼女の内情を赤裸々に、繊細に描ききっていく映像の数々に、彼女を愛する監督の熱い眼差しが感じられたのである。
それだけに、ラストシーン―穏やかにたたずむヴィオレット。カメラが彼女からだんだんと離れるようにして終わっていくエンディングに、何ともいえぬ感動を覚えた。それはまるで、彼女の孤独に寄り添い続けたカメラが、「もう大丈夫だね」とばかりにそっと離れていったかのような、不思議な優しさが漂うラストショットだったのである。
『ヴィオレット』
監督:マルタン・プロヴォ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス
製作:2013年
製作国:フランス
上映時間:139分
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