(C)Agnes Varda-JR-Cine-Tamaris, Social Animals 2016
映画監督アニエス・ヴァルダと、写真家でアーティストのJR。
映画はまず2人の出会いを語る。道、バス亭、パン屋、ダンスホールと、それぞれの場所で同じ所にいながら知らない者同士の2人。JRの語り。「まず、ダゲール街の彼女に会いにいった。次に彼女がうちへ」。2人は一緒に映画を作ることになった。JRの「写真工場」トラックに乗り込み、フランスの田舎町を巡る。
人々のポートレイトを撮って巨大に拡大し、建物や壁に貼り付ける。なんの変哲もない普通の風景が劇的に変化する。あるいは、人から見放されたような場所がにわかに活気づく。大げさでなく、奇跡が起きていると感じた。
2人が声をかけるのは、土地土地に根を張って生きる名もなき人々。貼り出された顔たちはみな力強く魅力に溢れている。それを見る彼女ら彼らは饒舌だったり誇らしげだったり。遠く離れた国に住むわたしのような名もなき人が、一連のできごとの数々を映画を通して共有できていることが、よくよく考えたら奇跡的に思える。
本作の劇中で挿入される、アニエス・ヴァルダ監督作「5時から7時までのクレオ」。同作に出演し、黒眼鏡を外してみせたゴダール。
本作のラスト。アニエスはJRをゴダールに引き合せるべく、遠路はるばるスイスのローザンヌに赴く。ゴダールのとった仕打ちはアニエスを十二分に打ちのめすものだった。が、JRは「彼が物語を作ってくれた」と言って、それまで装着し続けていた黒眼鏡を外し、素顔を見せる。何たる粋な立ち居振る舞い。何たる見事な物語の帰着。奇跡のような出来事が起きた?見事な作り事だった?もはやどっちでもいい。
貼り出された写真は数日で撤去されるらしい(と何かで読んだ)。砂浜に突き刺さったドイツ軍の要塞に貼ったアニエスの旧友の写真なぞ、翌朝には潮に流されていた。何たる儚さ。でもすべてはフィルムに刻印された。これまた奇跡だ。
アニエスの娘のロザリー・ヴァルダが2人を引き合せたことから全ては始まった。
奇跡のはじまりに企てありである。
『顔たち、ところどころ』
監督:アニエス・ヴァルダ、JR
出演:アニエス・ヴァルダ、JR
製作年:2017年
製作国:フランス
上映時間:89分
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