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サスペンス

へっぽこ探偵の熱狂の果てに『アンダー・ザ・シルバーレイク』

へっぽこ探偵の熱狂の果てに『アンダー・ザ・シルバーレイク』

(c)2017 Under the LL Sea, LLC

サムは30代なかばにして無職。LAのシルバーレイクに住んでいる。やわらかな陽光、青い空、木々の深い緑、カラフルな壁…美しい背景にまるで似つかわしくない着古したTシャツ姿で徘徊する。

アパートの部屋のベランダから、他の部屋に住む垂れたおっぱい丸出しの女性を、『裏窓』よろしく双眼鏡で覗き見するサム。ふと共用プールに現れたサラに一目惚れして積極的にアプローチ。案外簡単にいい感じになるものの、翌日彼女の家を訪れてみると、もぬけの殻だった。

サムは家賃を滞納しており、強制退去まであと5日という最後通牒を突きつけられている。が、喫緊の課題である金策には走らない。忽然といなくなったサラ捜索にのめりこんでゆく。わたしも家賃を払うために駆けずり回る話なんて見たくないので、こうして始まった美女探しのへっぽこ探偵物語にわたしは期待をふくらませる。白いオープンカーに乗りつけた、サラ失踪に関係ありげな女子3人組を追うくだりなぞ「不思議の国のアリス」的でもあり、ワクワクが倍加した。

サムが彷徨うシルバーレイクという街は迷宮のようであり、次第に事態は混沌としてくる。頻発する犬殺し、「フクロウのキス」なる魔物、謎の作曲家など、意味不明なものが次々に登場。街中に残された暗号を手掛かりに、ハリウッドの地下に潜む陰謀暴き、都市伝説の解明に、彼は夢中になる。
様々なポップカルチャーからの引用も盛りだくさんで、それらがことごとく陰謀解明のヒントにも見えてくる。
世の中には隠された秘密があり、一部のセレブたちだけがそれを共有している。その秘密を解き明かすことができればすべてが解決する。サムはそんなふうに考えてのめりこんでいったのかもしれない。

で、紆余曲折の末、サラのもとにたどり着く。が、彼女はすでに手の届かない場所にいる。テレビ電話から「間違ってしまったかもしれない。でも今さら元に戻れないからここでやっていく」と語りかける彼女の頬に一筋の涙がつたう。

ラスト。
双眼鏡で覗いていた冒頭の女性を訪ね、肉体関係を持つ。彼女の家に転がり込んで当面の夜露だけでもしのぐつもりなのかもしれない。
サムが、彼女の部屋のベランダからかつての自分の部屋を見ているところで映画の幕は下りる。シルバーレイクでのサムの大冒険は、何も解決せずに終わりを告げたのだ。もっとも、冒頭の覗きとラストの引っ越し以外は、すべて彼の妄想だったのでは?という気もしているのだが。

サムは都市伝説なんて本気で信じておらず、陰謀解明に走り回るのは現実逃避だと自覚していたのかもしれない。そう捉えると、なんて寂しいお話なんでしょう。あんなにハチャメチャで楽しかったのに(妄想の可能性大だけど)。
あるいは、彼がようやく妄想から解放され、これから地に足をつけて生き始めることができると考えれば、ある意味ハッピーエンドなのかもしれない。でもわたしは、サムが体験したあの悪夢のような熱狂を当面は忘れることができそうにない。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』
監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:アンドリュー・ガーフィールド(サム)、ライリー・キーオ(サラ)
製作年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:140分

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館長
館長
夢は映画館!と人前で言うようになってから20年以上が過ぎました。 時間が経つのは早いものです。 2014年にこのサイトを立ち上げ、2015年から仙台で上映会を開催し始め、今年2018年はいよいよ東京でも上映会を主催します。映画関連のイベントやワークショップにもあちこち顔を出してますが、相変わらず映画館ができる気配はありません。ひとまず本サイトのレビュー、もっと一所懸命書きます。フォローよろしくお願いします。
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