チベット自治区、マルカム県プラ村での村人たちの暮らしぶりが繊細に映しとられる。
薪を燃やす炎のやわらかな光。ヤクの改良種「ゾ」を解体する道具を洗う時に沸き立つ湯気。大麦を炒って粉末状にした「ツァンパ」を器用に手でこねながら和やかに団欒する人々。道端にみっしりと積まれた薪の山…
東京で目にしている日常とまったくかけ離れた光景は、しかし不思議と絵空事感がなく、むしろ何世代にも渡って引き継がれてきた暮しの揺るぎなさを感じて心を打たれる。
ニマ家の父親が亡くなり、父の弟ヤンペルは、死ぬ前に聖地ラサに行きたいという思いを口にする。叔父の願いを叶えるため、ニマは巡礼の旅を決意。そのことを知って次々と同行を願う村人が集まり、老人、妊婦、少女などから成る巡礼団が形成される。
ボロボロの耕運機の上に幌を被せただけのトラックにびっくり。こんな車で1200km離れた聖地ラサへ、さらに1200km先のカイラス山へ無事たどり着くのだろうか?しかし真の驚愕が巡礼の始まるまさにその時に訪れる。
道路に出るなり、両手にはめた木の下駄のような道具を顔の前で3回打ち鳴らし、地面に腹這いになり、拝む。立ちあがり、数歩歩いただけでまた同じ動作を繰り返す。「五体投地」という祈りの作法だ。え?本当にこれで行くの?と、茫然、唖然。
道中これでもかと騒動が起きる。
なかでも、トラックが車に追突された時が特に衝撃的な1コマ。が、重い車を苦労して人力で運んだうえに動かし始めた地点まで戻り、五体投地を再開する光景を目にした時の衝撃はそれを軽く凌駕した。
一行は淡々と巡礼を続ける。金がなくなったら当たり前のようにその場でバイト。
この精神の安定っぷりが謎なのだ。
みな同じ村人とはいえ他人同士。こんな壮大かつ過酷な旅を、仲違いすることなく続けていく団結力はいったいどこで培われるのだろう?
監督の張楊(チャン・ヤン)が、冒頭の丁寧に映しとられた村での暮らしぶりにそのヒントを意図的に散りばめている、と捉えることも可能だ。なぜなら本作はフィクションだからである。
『ラサへの歩き方 ~祈りの2400km』は、驚異の五体投地を追体験できるだけでなく、それを実行する「人」の内面を育む環境に思いを馳せるという楽しみも見出せる作品だ。
『ラサへの歩き方 ~祈りの2400km』
監督:チャン・ヤン
出演:ヤンペル、ニマ、ツェワン
製作年:2015年
製作国:中国
上映時間:118分
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