
(C)Primeworks Studios Sdn Bhd
まるまる1ヵ月以上レビューを書いておらず、先月11月はついに1本も上げることができなかった。上映会の準備で忙しかったというのはただの言い訳にすぎないが、いよいよ今週末、『タレンタイム~優しい歌』の上映会を開催する。
人種の坩堝であるマレーシアを舞台に描かれる本作。言語も宗教も生活のバックボーンも異なる人々の間で繰り広げられる営みは一筋縄ではいかない。
音楽コンテスト「タレンタイム」にピアノの弾き語りで挑戦する女子学生ムルーの家は、裕福で旧来の慣習に捉われない大らかな考え方のもと、中国人女性メイリンをメイドという役割ではあるけれど家族同様の親しみをもって迎え入れている。しかしムルーの母親の友人はメイリンにたいする侮蔑の気持ちを隠そうともしない。和気あいあいと平和に楽しく暮らす家族にふっと入り込んでくる毒。
タミル系のマヘシュ。彼の一族の婚礼の儀式と、隣人のムスリムたちの喪の儀式。両者がたまたま同じタイミング執り行われることによって起こる、マヘシュの叔父の身に降りかかる悲劇。
挙げていけばきりがないが、本作はシーンに支配的な空気に異質な要素が闖入し、現存のシーンの空気が混合ガスの様相を呈し、やがて空気が異質化する、そんなシーンの積み重ねによって成り立っているように思う。異界と異界が常に混じり合っているような世界。
ガスと言えば、意中の女性教師に想いを伝えたもののフラれてしまったしんみりした空気も、しょんぼり立ち去る中年男性教師の放屁によって見事に変質させられていた。
本作を何度も観直しているうちに僕の心に最も印象的に定着したのが、劇中で度々奏でられるドビュッシーの「月の光」。それとムルーが弾き語る「Angel」。いずれもピアノの旋律が美しいゆったりとした心地いい楽曲だ。これらの音楽が流れる時、風がたゆたう街中や自然の画がこれまたゆったりと描きだされる。そんな気持ちいい音と風が、混濁した世界と世界の隙間にゆっくりと満たされていく様が、僕の心の襞にも行き渡って何かよくわからない心地にさせてくれる(たぶん安らぎを与えてくれている)。
『タレンタイム~優しい歌』は僕にとってそんな作品だ。5回鑑賞時点の今のところ。
『タレンタイム~優しい歌』
監督:ヤスミン・アフマド
出演: パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショール、モハマド・シャフィー・ナスウィップ
製作年:2009年
製作国:マレーシア
上映時間:115分


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