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一億、悪人。『アウトレイジ 最終章』

一億、悪人。『アウトレイジ 最終章』

(C)2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

ネットで拾った情報なんで実態はよく知らないが、フィレンツェでの修業を経て現在は靴職人として独立した花田優一氏の商品の予約は1年半待ちの人気らしい。が、本人のTV露出の激増を受けて「たった2年半の修行で職人面し過ぎ」のような批判が噴出。日本における職人の下積みの長さが重要という価値観を利用した中傷だと僕は解釈しているが、隙あらば錦の御旗を立てて他者を攻撃しようという風潮がこの国に定着していることは疑いようがない。

職人で思い出したのが堀江貴文氏。2015年に「今時、イケてる寿司屋はそんな悠長な修行しねーよ。センスの方が大事」「覚えんのに何年もかかる奴が馬鹿って事だよボケ」というツイートで、下積みの長さを美徳とする風潮を痛烈に批判している。一方、「日本で半年から1年ほど勉強した寿司職人が東南アジアで良い給料を貰っている」という事例も紹介している。
いちおう「センス」というワードをチラつかせてはいるものの、彼にとっての重要な価値観は「金」「効率」であることは疑いようがない。その価値感を拠り所に時に激烈に(時に「バーカ!」等稚拙な罵倒語を織り交ぜ)他者を批判する彼が非常に大きな発言力を保持しているのがこの国の現状だ。

「全員悪人」のキャッチコピーをひっさげて2010年に公開された『アウトレイジ』。
本作における「悪人」を因数分解すると、「こすっからい」うえに「メンツが大事」とでもなろうか。登場人物のほぼ全員が己の私利私欲のためだけに動き回るうえにヤクザ特有のメンツが絡み、些細ないざこざがとんでもない抗争に発展していってしまう。

続く『アウトレイジ ビヨンド』では抗争が関西にまで発展。罵倒語を繰り出す人々のオンパレードで、激しい啖呵の切り合い、恫喝の力比べが極度の緊張感を醸し出すのと同時に一種の滑稽味を内包していた。

『アウトレイジ 最終章』が公開された2017年現在のこの国は臆面もなく利得を追及し、己の都合や体面を保つためならためらうことなく他人を中傷・恫喝する人で溢れてしまったかに見える。「一億、悪人」などと言いたくなる(この流れに乗れない人も当然居るわけだが)。

「全員悪人」の様が非現実的で鳥肌ものだったのに、もはや現実が(ほぼ)全員悪人化している。そんなのを映画で見せられてもおもしろくもなんともない。むしろ気持ち悪い。だからビートたけし扮する大友が「義理を重んじ」「筋を通す」生き方に徹する、したがって金持ちにもならないし出世もしない(余談だが、シリーズを通して大友が飲食物を口にするシーンは皆無である。たぶん)という様が前景化する「最終章」のありようは必然なのかもしれない。

「悪人」よりも「義理」や「筋」の方が現実から屹立して映画映えするという、この国の今(と自分)を逆照射したかような本作の佇まいに接して据わりが悪い思いだ。

『アウトレイジ 最終章』
監督:北野武
出演:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、塩見三省
製作年:2017年
製作国:日本
上映時間:104分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!
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