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ニューヨークの路上で絵を描き続ける80歳(撮影当時)の日系人画家、ジミー・ミリキタニはカリフォルニアに生まれる。その後母の故郷広島で育つが18歳でアメリカに舞い戻る。第二次大戦中に日系人強制収容所に送られた彼はアメリカ国家に抵抗して自ら市民権を放棄し、ゆえに社会保障も受けられず、ニューヨークで路上生活を送ることになる。
本作の監督であるリンダ・ハッテンドーフは、彼の絵を買ったのが縁で「俺を撮れ」と言われる。彼は顔見知りになった人に写真を撮らせるらしくそれ用のポーズもちゃんと用意しているのだが、リンダが持っていたのはビデオカメラであった。
911テロをきっかけにリンダは彼を自宅のアパートに招き入れ、血の繋がらないお爺ちゃんと孫さながらの奇妙な共同生活が始まる。
その後の展開がまったくもってドラマチックで、ミリキタニの数奇な人生が次第に明らかとなっていくさまがカメラに収められていくのだが、リンダの本職はドキュメンタリー映画作家ではなく映画の編集者である。彼女はミリキタニのことを映画にしようなどとは露ほどにも思っていなかったそうなのだ。ミリキタニをサポートしたいという一心でとった行動がどんどんドラマチックに転がっていったのだという。
偶然が偶然を生む、そのプロセスから映画が立ち上がっていく様がフィルムに刻みつけられた「あざとさから遠く離れた」本作の手ざわりは実にすがすがしい。が、もしかしたら最初からそういう風にしようという企みのもとに作られた作品なのかもしれない。だとしたら、つまり狙って作ったのだとしたらまさに神業だ。
どちらにしても奇跡のような話で、そんな場に観客として立ち会わせてもらえる機会を得た自分は本当に幸福だと思う。
本作は仙台にある桜井薬局セントラルホールという映画館で観た。仙台で行う上映会のチラシを置かせていただきに東京から伺ったさいに観たもので、観たくて観たというのでなくたまたま観れる時間にやっていたから観たという、本作との出会いこそがまさに偶然だったわけだ。
『ミリキタニの猫』
監督:リンダ・ハッテンドーフ
出演:ジミー・ミリキタニ
製作年:2006年
製作国:アメリカ
上映時間:74分
『ミリキタニの記憶』
監督:Masa
製作年:2016年
製作国:日本
上映時間:21分
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