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ヒューマン

見つめるということ『わたしたち』

見つめるということ『わたしたち』

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ソンは内気で大人しい女の子。両親は共働きだが経済的には楽ではないようだ。弟の面倒も見てあげなければいけない。
しかし彼女にとって何よりも辛いこと、それは友だちがいないこと。というか端的にイジメの渦中にどっぷり浸かっている。

冒頭のドッヂボールの組み分けのシークエンスからいきなり心臓をギュっと鷲掴まれる。
チーム構成員を一人一人順々に指名していくというこのシチュエーション、『桐島、部活やめるってよ』にもあったなあ。そして自分の幼稚園や小学校時代にもこんなことあったよなと、苦い記憶が甦ってくる。いや自分がそういう目に遭ったのかどうか記憶が定かでない。もしかしたら自分が加害者として振舞っていた可能性もある。あるいは単なる記憶の捏造かもしれない。いずれにしても吐瀉物が胃から食道に這い上がってくるかのような感覚を呼び起こす、辛い辛い見事なオープニングだ。

ソンを虐げているのはボラという美人で頭がよく、クラスの番長的ポジションに君臨する少女。コイツのイジメ方が「心が折れる」ということを巧妙に考え抜いた見事に陰湿なやり口で、僕は全面的にソンに感情移入していたのでソンより先に心が折れてしまいました。

が、ソンは心が折れそうで折れないのである。イジめられているから当然態度はオドオドしているのだが、世の中をよく見ているのだ。
ソンがいつも目で追っているのはもちろん親友のジアだ。ジアがボラのグループに取り込まれてしまい仲が引き裂かれてからもその視線がしっかり据えられているのが辛いのだけど、その愛を諦めない態度に僕は救われた。

ベロベロに酔っぱらった父をクラスメートに見られ、「父はアルコール依存症」というネタでイジめられるというくだりがある。そんなことはつゆ知らずウサばらしに家で晩酌をする父に対しさすがのソンもブチ切れるのだが、おじいちゃん(つまり父の父)が入院していて父は決して見舞おうとしないというサブシーンも用意されていて、過去に何があったのかは一切語られないのだがやがておじいちゃんが亡くなり、空っぽになったベッドを見つめながらそっと涙を流す父の後ろ姿をソンはしっかりと見つめるのである。葬式の後、浜辺で物を言わず海を見つめる父を再び見つめながらソンは何を思ったのだろうか?

ソンは生き馬の目を抜く学校という閉鎖空間を器用に泳いでいく技量を持っていない。が、世の中を見つめることで心の中にゆっくりとしかし確実に積み上げた「本当の自分の気持ち」のほんの一端だけでも表明することができた。大げさでなく世界は救われたと思った。

『わたしたち』
監督:ユン・ガウン
出演: チェ・スイン(ソン)、ソル・へイン(ジア)、イ・ソヨン(ボラ)
製作国:韓国
製作年:2015年
上映時間:94分

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館長
館長
仙台で映画館を開業して、生まれ故郷の発展に貢献したいと思っている50歳です。 50年間、経済的にも精神的にも映画に救われ続けてきたという思いがあります。 ミニシアターを作ることで、ささやかながら映画に恩返ししたいと思っています…といっても何か秘策があるわけではまるでなし。 今できることは、とにかく思いを発信し続けていくだけです!
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