
(c)2013 二馬力・GNDHDDTK
本作のネット評を漁っていたら、禁煙協会とかいう団体のクレーム記事が噴出していた。曰く「喫煙シーンが多すぎる」「結核患者の傍で煙草を吸わせるとはけしからん」。
力なく笑ってしまった。なんでもかんでも「今」「ここ」に引き寄せないと語れない人たち。
本作の鑑賞後、吉田喜重の『秋津温泉』(1962年)を観た。ホント偶然だが。
鄙びた温泉宿の女将の娘(岡田茉莉子)が、結核の学生(長門裕之)を看病するうちに喫煙が習慣化する。「煙草が結核に良いというのは迷信だったのね」と呟きながら煙草をくゆらすシーンがあるのだが、一般的に「煙草は肺の病気に良い」と信じられている時代があったということを裏付けている。そんな時代を描く映画に煙草が頻出するのは当然だ。
『風立ちぬ』の喫煙シーンを非難する人たちは、時間がほんの数十年、場所がほんの数百キロ変わるだけで物事の見え方というのはガラリと変わるんでそこんとこは想像力で補ったうえで物を書いたり語ったりしなきゃね、という問題意識を僕に残してくれたのだが、それよりなにより『風立ちぬ』は「風」の映画である。
ことに煙草の煙に現れる繊細かつ複雑なさまざまな風の表情が味わえるというアニメでこそ力を発揮すると思われる豊かな表現を、禁煙の「問題意識」でもって封殺し、見なかったことにするのは余りにも悲しい。
本作はまた、「絵で動く純文学」の映画でもある。文学に「純」をつけるのは死語かもしれないが、僕の中では「純文学」ですんなりくる小説群がある。
その手の日本の小説を読み耽った高校時代、いろいろと頭の中に妄想していた世界(特に風景)が頭の中にストックされていたけど出口がなく、本作に接したさいに一気に現れ出たかのような感慨があった。純文学で描かれた風景は確かに実在したのだろうが、その時代に生まれていない僕にとっては妄想の世界だ。それが確かに実在したかのような目視できるというのは一種の快感ですらある。
純文学にはそういう楽しみがあることを発見した。またいろいろ読みたくなっちゃったな。なので、かつて読んだ小説の「風立ちぬ」もさっそく買ってしまいました。
『風立ちぬ』
監督:宮崎駿
出演(声):庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊
製作年:2013年
製作国:日本
上映時間:126分


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